「19時5分か……そろそろ時間が気になってきたかな?俺が抱き締めるから、遠慮せずに胸に飛び込んでおいで、プリティベイベー!」


時計ばかり見て、ソワソワしている私に気付いた向井さんが、大きく腕を広げて満面の笑みを浮かべる。


「まだ暴れてないでしょ。俺は森川さんが暴れたから押さえていただけなんですから」


本当はそうじゃないけど、私達が付き合っているって知られたくないんだろうな。


向井さんがどこまで本気なのかは分からないけど、知られたくないのは私も同じ。


物凄く怒って南部君に殴り掛かるか、空気が抜けた風船みたいにしぼんでしまうか。


どちらにしろ、今は言うべき事じゃないような気がする。


「は、はは。そ、そうだ。南部君、トイレはどこにあるの?」


慌てて、向井さんから逃げるように尋ねる。


「ああ、ごめんごめん。階段を下りて一番最初のドアがそうだよ。言ってなかったね」


南部君も、向井さんから逃げるには良い手だと思ったのだろう。


口元に微かに笑みを浮かべて、私にそう教えてくれた。


「そうか分かった!俺も一緒に行こうじゃないか!」


「やめてください。それはただの変質者ですよ」


立ち上がろうとする向井さんの肩を掴み、南部君が呟いた。