しばらくして、窓ガラスをバンバンと叩く音が聞こえた。


南部君と話をしていて、ハシゴを上ってくる音に気付かなかった私は、何事かと驚いたけど……窓の外には向井さん。


本当にこの人は玄関から入って来ないんだなと、呆れながら引きつった笑顔を浮かべた。


「いやあ、まいったまいった。雨が降り始めてさ、ちょっと濡れちまったよ」


南部君が窓を開けると、向井さんはすぐに部屋の中に入って来て、濡れた髪を掻き上げてみせた。


「どうだ?菜々。水も滴る良い男だろ?俺は濡れていても格好良い」


確かに格好良いんだけど……私には南部君がいるから。


向井さんには申し訳ないけど、この気持ちは変わらない。


「はいはい、濡れたままでうろうろしないでくださいよ。あ、ほら!もう靴下も濡れてるじゃないすか!早く脱いでください!」


そう言って、タンスの中からスポーツタオルを取り出し、向井さんに放り投げた南部君。


それを受け取って、制服の水分を拭き取ったけど、髪はそのまま。


窓の外を見てみると、とうとう降り出したかという程の雨が、景色の中に見える。


暗く……何かが起こりそうな空。


これが何を意味しているのか、南部君との関係に受かれている私は、まだ分かっていなかった。