『山中彩乃さん?ご家族しか面会出来ないですよ。そこに書いてありませんか?』
集中治療室の前、インターホンのスピーカーから聞こえた声に、私達はガックリと肩を落とした。
昨日も今日もダメ。
とりつく島もないといった感じで、私達にはどうする事も出来ない。
「仕方ないな、一般病棟に移されるまで待つしかない。ひと目、彩乃ちゃんにお目にかかりたかったけど」
さすがは向井さん。
こんな時でも女の子の事を考えているなんて。
私が儀式の事を考えているのと、大差ないよね。
「じゃあ……今日もまた俺の家に行きますか。森川さんが学校に行かないように見張ってないと」
私をチラリとも見ずに、向井さんに言う。
「そうだな。とりあえず俺はチャリを返してくる。放置したら、またあいつに怒られるからな」
あいつとは、「和田延夫」さんの事だろう。
そりゃそうだよね。
勝手に乗って行かれて、元の場所に戻されないのなら怒って当然。
「俺がいないからって、菜々に手を出すんじゃないぞ?菜々は俺のプリティベイベーだからな!」
「はいはい、分かりましたよ。さっさと返して来てくださいよ」
昨日の夜の事を知ったら、向井さんは怒り狂うだろうな。