「幽霊か、確かに言ってたよね。あの時はただ、おまじないの事だって思ってたけど、森川さんが家でも幽霊を見てるとなると話が変わるかもね」


そう言ってくれたのは、休み時間が終わる直前。


チャイムが鳴り、二限目の授業が始まって、私はノートを取るフリをしながら、儀式の事ばかり。


昨日の夜、抱き締められた事も、明け方にキスした事も、まるで何ヵ月も前に起こったようで。


そんなドキドキは一切感じない。


儀式に頭の中を支配されていて、どうやって実行するか、どうやって成功させるかという事しか考えられなかった。


「もしも、あの幽霊が追い掛けて来たら……」


ルーズリーフに描いてある見取り図に、隠れられそうな場所を記して、その光景を想像する。


どんな速さで追い掛けてくるのだろう。


それを見たわけじゃないから、予想出来ない箇所があるとすればそこだ。


粘土細工の不気味な顔の幽霊。


思い出すだけでゾッとするけど、遭遇しなければ良いだけの話なのだから。


授業が進み、終わりに近付いた頃、そこで私は、ようやく彩乃の席に目を向けた。


彩乃が儀式をやった事から始まり、彩乃を助ける為に挑戦した儀式。


最初はやめろと言ったけど、今では感謝している自分がいた。