毎日のように靴箱の脇で、鷲尾先輩を呼び出し、暴力を振るっていたのを見たことがある。お金をもらっていたこともあった。もちろん朝だけではなく、鷲尾先輩がたくさんのパンやジュースを両手で抱えて走っている姿も。
鷲尾先輩を執拗にいじめていた人だ。
私が知らないだけで、他の先輩もこの人からなんらかの被害を受けていたんだろう。
この学校には、大きい小さいはあるものの、そういう格付けがされていて、そういう扱いをされている人が、いる。
……隣のクラスの柿本さんも、そういう人だった。
いつもひとりで、人にぶつかられたり、無視されているのを何度も見かけた。
私のクラスにはあまりそういうのはない。ただ、それは運がよかっただけ。
誰にでも明るく話しかける飯山くんや、あっけらかんとした態度で人と話す茗子たちのおかげだろう。
それでも、空気のようにおとなしい子は、何人かいる。
「なんでこの大和がいてオレがダメなんだよ」
舌打ち混じりに呟いてから大和くんをじろりと睨みつける。
大和くんはゆっくりと先輩に視線を移してから、かすかに笑った。
「センパイみたいな人と一緒にしないでほしいね。お前みたいなクズじゃねえよ、俺は」
「は? お前調子乗ってんなよ。同級生病院送りにしたからって偉そうにしてんのか。オレに敵うと思ってんのかよ」
「別に」
明らかに大和くんは先輩を挑発している。
あの、私また間に挟まれててすごく、居心地が悪いんですが……。
小さく縮こまりながら、やっぱり、ウワサはホントなのかなあと思ったりした。病院送りってなにしたんだろう。どんな理由があって、そんなことを……。
「あっれー!? あたりぃ?」
次に聞こえた声はやたら明るい声。
大きな先輩の背後から、小さな女の人がひょっこりと顔を出した。
目が大きい。そしてショートボブの髪の毛はかなり色が明るめの天然パーマだ。化粧もバッチリ決められていて、誰もがかわいいと思うくらい、めちゃくちゃかわいい。小動物みたいに愛くるしい。
リボンの色で、2年の先輩だとわかった。
同い年かと思った……。