気にして、疑っているのに、黙ってないでよ。
 聞いてよ、私に。目の前にいるのに、どうして……聞こうとしてくれないの。耳を塞いでしまうの。


——『高校、どこにいくの?』

——『この高校、ちょっと遠いけど……とてもいいところなんですって。こことか、どう思う? 輝の偏差値なら受かると思うわ』

——『公立もいいけれど、せっかくだし、遠くまで通うのも、新しい友達と出会えるわよ。途中の駅は遊ぶところもたくさんあるし』

——『ここがいいんじゃないかしら』


 ねえ、なんでそんなこと言うの?
 私、そんなの気にしてなかったのに。寂しかったけど、それでも、踏ん張って戦ってたんだよ、私。

 
「私に"いい"って、お母さんとお父さんが……いいと思うだけじゃない!」

「輝……」

「私……美術学科のある、高校に、行きたかっ……た」


 絵を描くのが好きだった。
 ずっと、ずっと私は行きたい高校があった。

 公立だったから、同じ中学から進む子も多いだろうから、また高校でもひとりになることを、もしくは、以前のウワサが広まることを、恐れたんだろう。

 迷惑をかけたのだってわかってる。
 だから、私は今の高校を選んだ。

 ただ、それでも。

 私に一度でいいから、聞いて欲しかった。
 ずっと、行きたいと言っていた学校があるのを、知ってたじゃない。何度も話していたじゃない。


——『そのほうがいいと思うの』
——『きっと、楽しいわよ』


 なんで、なにも、言わないの。
 いいか悪いかわからない。私は、考えることすらできなかった。


 うまく言葉にできない。
 涙が溢れてうまく声がでない。

 人に気持ちを伝える方法を、私はまだわからない。言葉がたりなさすぎて、上手く言えられない。


 察して欲しいと思っているわけじゃない。
 でも、思いを口に、言葉にするのはとても難しい。


 言おうと思っても、喉が締め付けられて言葉が出なくなってしまう。それがどんどん溜まって私の心を重くさせていく。


 だから。
 ほんの少しでいいから。


 間違っててもいいから。正しいことなんてわかんないから。



「耳を、傾けて、声を、聞いて」



 間違っているなら怒って教えてほしい。正しいならそれを応援して欲しい、わからないなら、一緒に考えて欲しい。


 勝手に答えを、出さないで。

 言いたいことが、伝えたい気持ちが、たくさんたくさんあるんだ。


 言わなくちゃ、と思うと、のどがヒリヒリと痛んで、息をうまく吐き出せなくなった。声を出さなくちゃと思うと、代わりに涙が溢れてしまって、より一層声が出なくなってしまった。


 だけど、叫びたい。




「……っ、ごめん、ごめん、なさい」





 ほんとはずっと、その一言を言いたかった。
 頭を下げさせてごめんなさい。

 私のために、頭を下げているのがわかっていたから、ごめんなさい。




「ご、ごめんなさい……ごめん、なさい、心配ばかりかけて、ごめん、なさい」



 聞いてもらえないことに、意地になってその一言を今まで言えなくて、ごめんなさい。