「い、今の声なに!?菜月ちゃん!?」


二階の部屋から飛び出して、階段を駆け下りてくる真弥ちゃん。


「どうしたの?何かあったの?」


真弥ちゃんのお母さんが、私の前に屈んで心配そうに尋ねる。


「す、すみません。鏡に映った自分に驚いちゃって……」


私に駆け寄ろうとする真弥ちゃんに、「来ちゃダメ」と、首を横に振って合図を送った。


それに気付いて、鏡の手前で足を止める。


「あら、玄関の明かりが点いてなかったのね。ごめんなさい、暗かったら怖いわよね」


そう言って立ち上がり、玄関の電気を点けてくれた。


迷惑をかけたのは私なのに、優しく気遣ってくれるなんて。


「騒いでごめんなさい。気を付けます」


ナニかを見ていないおばさんに、何を説明してもわからないだろう。


学校で見た幽霊が、この家に付いて来ているなんて、信じてくれるはずがない。


「真弥ちゃん、後で話すね」


こんな状態でお風呂なんて入りたくはないけど……今の出来事で、身体中にじっとりとした汗をかいている。


これではますます、人様の家の布団で寝る事が出来ないから。


「菜月ちゃん、すぐに上がってきなよ?」


不安そうに呟いた真弥ちゃんに微笑み、私はお風呂場へと向かった。