もう、この時点でわかる。


鏡の中から白い顔がこちらを伺っているのが。


そしてあの音。










バチン……バチン……。











再びナニかが、鏡の中で鏡面を叩き始めたのだ。


や、やめてよ!こんな場所で!


逃げたいけど、トイレだけは避けて通れない。


もう漏れそうなのに、ここから出たら大変な事になる。


トイレに現れるのだけはやめてよ……こんな事なら、家に帰っていれば良かったと後悔しながら、私は便器の前に進めた。


パンツを下げて便座に座って用を足す。


その間、鏡を見ないように下を向いていたけど、鏡を叩く音はずっと聞こえている。


そして、鏡の中から手が伸びて……私の髪を掴むんじゃないかと不安になる。


だけど、そんな事はなくて。


急いで立ち上がり、パンツを上げて水を流した私は、鏡を見ないように手を洗ってトイレを出た。


廊下を抜けて、再び玄関の鏡の前。


私がそこを通り過ぎる速度に合わせて、ナニかが鏡の端から同じ速度で現れる。






……絶対に見ないんだから。







強くそう思って階段に足を掛けた時、あの声がまた聞こえた。










「……私を見て」