視界の中に……ナニかはいない。


見ないようにしても、嫌でも視界の中に入って来る鏡の存在感は、恐怖でしかない。


ナニかがいないなら今のうちにと、鏡の前を通り過ぎようとした時だった。













鏡の端から、まるで隠れていたかのようにナニかが飛び出して来て、鏡面に張り付いて私を睨みつけたのだ。


「!」


あまりにも唐突に、近くに現れたナニかに、心臓が止まりそうになる。


声も出せない……出せば気付かれる。


身体の右半分が、鏡の方へと引っ張られるような錯覚に陥りながら……それでも私は、なんとかそれを振りほどくようにして鏡の前を通り過ぎた。


……大丈夫、これも二日目だし、来るかもしれないと予想していたから、取り乱すほどじゃない。


奥へと続く廊下に入り、ふうっと溜め息をついた時……私の背後から、妙な物音が聞こえ始めたのだ。















バン……。




バン……バン……。
















バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!









「ひ、ひいいっ!!」


何かを叩くような音が、私を狩り立てるように背後に迫って来るようで、逃げるように廊下の奥へと走った。