パタッ……と、鏡がテーブルの上に倒れた。


ほんのわずかな時間なのに、信じられないくらいの汗が額に噴き出している。


「はぁ……はぁ……やめてよね。私の部屋なのに」


ただ立っていただけでこんな状態だったのだから、動いた真弥ちゃんはもっと恐怖しただろう。


ほんの三歩の距離だけど、真弥ちゃんにしてみたら果てしなく遠い距離に思えたに違いない。


でも……そのおかげで、空気がまた落ち着いた。


張り詰めていた空気は弛み、この部屋独特の空気に変わって行く。


殺伐とした雰囲気は消え去り、ふんわりとした心地良い雰囲気に。


「ふう……それにしても、どうしてこのタイミングでナニかが現れたんだろうね」


考えてもわかるはずがないんだけど、考える事を止めると、警戒心も薄れてしまいそうで。


嫌だけど、考えるしかなかった。


「家に帰って待ち構えてるとか、勘弁してよ……それがわかってたら、朝に鏡なんて見なかったのに」


「そうなんだよね……私はナニかがずっと付け狙ってると思って、鏡を避けてたけど」


いないとわかって、油断した途端これだ。


死なない為には、鏡だけは本当に気を付けなければならないのだ。