一限目の授業が終わり、階段前に集まる前に、私は樹森君の席に向かった。


鏡に映らないように、教室の後ろに置かれている鏡を裏に返して。


「樹森君、ちょっと良い?聞きたい事があるんだけど」


「え?き、桐山さんが僕に何の用が……」


辺りを見回して、驚いた様子で自分を指差す樹森君。


女の子に話し掛けられる事に慣れていないのか、耳を赤くして口元が緩んでいる。


「えー、菜月ちゃん、どうして樹森なんかを……まさか、そんな趣味が?」


「おいおい、マジか?俺と付き合ってるのによ」


真弥ちゃんが言った言葉に、京介まで反応しちゃったよ……。


こんな時にそんな事を考えてるわけないでしょ。


「あー、もう!二人は黙っててよ!樹森君、私達と来てくれない?」


「あ、ああ。うん。分かったよ」


私の予想では、きっと樹森君はナニかを見ている。


太っていて、見た目はオタクっぽい樹森君。


人を見た目で判断したらダメだとは思うけど……樹森君は本当にオタクなんだよね。


そして、騒がしい教室から出て、影宮さんと待ち合わせをした階段前に。


もう既に影宮さんはいて、長い前髪の間から私達を見て、ニタリと笑っていた。


「また人が増えてる……桐山さんのクラスはどうなってるの?紫藤君にキモタク君まで」


「えっと、樹森君は多分そうなんだけど、京介は……なんでここにいるの?」


私が呼んだのは樹森君だったのに、さも当然のように京介も付いて来ている。