少し開いたドアの隙間。


そこから恐る恐る、正面にある鏡を見てみると……。













私以外の人は映っていない。


いきなり飛び出して来る可能性はないとは言い切れないから、急いで洗面台に駆け寄り、棚に置いてある歯ブラシを手に取った。


水に付けて、歯磨き粉を付けて。


鏡に映らないように、その場に屈んで歯を磨く。


結局……ナニかが現れる様子もなく、私は歯磨きを終える事が出来た。












「行ってきます」


朝の準備を無事に済ませる事が出来て、家のドアを開けると……玄関の前で誰かがうずくまっていたのだ。


長い黒髪で、こちらに背を向けて屈んでいるその姿は、一瞬ナニかに見えた。






「だ、誰?」





震える声で尋ねると、ゆっくりとその顔を私に向ける。


怯えた眼差しを、長い前髪の間から覗かせて。


「桐山さん……なんとかここまで来る事が出来たわ」













これは……影宮さん!?


どうして私の家の前でうずくまってるの!?


「影宮さん!心配したんだから!ナニかに襲われてもう……」


死んでしまったかと思った……そう言いたかったけど、咲良の事が頭をよぎり、それ以上は言えなかった。