「どこにも……いない」


階段を下りて、玄関の前までやって来た私は、廊下の電気のスイッチを押しながらそう呟いた。


相変わらずスイッチを押しても電気は点かず、外からの光で辛うじて屋内が見える程度。


リビングからも光は漏れていない。


姿を隠す事が出来るとすれば、リビングと脱衣所とトイレくらいだけど……。











ドアを開けたような音は聞こえなかった。


つまり、どこにも入ってはいないという事だけど……。













そうなるとやっぱり、ナニかがいたんだ。











そう結論づけたその時だった。









キィィィィ……。










と、家の中の全てのドアが開き、その中から廊下に出てくる、何者かの足音が聞こえたのだ。


「な、何!?何なの!」


まるで、私はここにおびき出されたかのように、リビングから、脱衣所から人影が出て来た。










「ああああ……菜月、どこなの?何も見えない」








これはお母さんの声!?


慌てて手に持っていたスマホの画面の明かりを脱衣所の方に向けると……。










そこには、両目にガラス片が突き刺さって、手探りでこちらに寄ってくるお母さんがいたのだ。