「菜月、ご飯食べなさい」



しばらくして、一階から私を呼ぶお母さんの声が聞こえた。


お腹はすいているけど、それほど食べたくはない微妙な状態。


夜中にもっとお腹が空いて、食べに行くのは嫌だから、今、少しでもお腹に入れておかなきゃ。


ナニかが、どこかからか見ているような気がする……。


鏡はテーブルに伏せられたままだから、どこにいるのかはわからないのだけど。


だけど、脱衣所で感じたようなヒヤリとした感覚はない。


つまり、私が通った所にナニかはいないという事なのかな?


それですらも、鏡を見ていないからわからない。


とにかく今は、鏡を見ない事が大事だ。


脱衣所のドアは閉めたから、リビングまでの間に鏡はない。


うちで一番大きな鏡がそれだから、他は見なければ何とかなりそうな気がする。


「よし……きっと大丈夫」


少しだけお腹に入れて、すぐに部屋に戻って来よう。


布団を頭から被って、朝になるのを待てば良い。


怖くて震えても、朝になれば何とかなると思う……そう思いたい。


不安が拭えないまま、一縷の望みに希望を託して、ドアを開けて部屋を出た。


暗く、ナニかが待ち構えているかのような廊下を歩いて一階に向かった。