「……私を見て」
いつものような、空耳のような声じゃない。
はっきりと、部屋のどこからか発しているような大きさだ。
「……何だ?誰か他にいるのか?」
突然聞こえたその声に、原田先生が驚いた様子で辺りを見回す。
「何……何なの?」
原田先生の両側に並ぶ鏡。
ナニかがここにいるのはわかるけど……何か変だ。
「……私を見て」
「……私を見て」
「私を見て」
「私を」
「私を」
「見て」
「私を」
「見て」
「見て」
「見て」
「見て」
「私を」
「私を」
原田先生が見回して、鏡に目を向けると、ナニかはいつもと違う動きを見せる。
私達には、待ち構えているかのようにそこにたたずんでいるのに、原田先生が見る直前に、見られないように別の鏡へと移動しているのだ。
「だ、誰だ!隠れてないで姿を……」
ナニかの声が、先生の余裕を削り取って行く。
そして、部屋の中を見回しているうちに……欠けた鏡に気付いたようだ。
「……な、何だこれは。この鏡は壊れたはずだろ……」