声を出してはいけない!


驚いたそぶりを見せても、それはナニかに気付いたと気付かれるかもしれない!


視界の中のナニかが、ジッと私を見ているのがわかる。


学校で見た、咲良の血越しの顔とは違う、真っ白な顔に真っ黒な髪。


そして……目は赤いように思える。


そんな顔が、鏡の中から様子を伺っているのだ。










こんなの……耐えられない!











気付いた事に気付かれなければ良いとはいえ、今から湯船に浸かるとか絶対に無理だ!


私がいくら無視をしていても、ナニかは私を見続ける。


そんな中でリラックスなんてしていられないよ。


湯船に蓋もせずに、慌てずに向きを変えて、ドアノブに手を掛けた。














「……私を見て」












不気味な声が背後から聞こえて、再び背筋に悪寒が走る。


まるで氷でも当てられたかのような冷たさと不快感に震え、震えながらも平静を装って浴室から出た。


気持ちでは落ち着けって思っているのに、身体が早く出ようと急いでしまう。


この不気味な顔から逃れられるならと。


慌てて脱衣所に出た私は、バスタオルを手に取り、鏡を見ないように顔を下に向けた。