「きゃ、きゃあああああああああっ!!」
突然の出来事に、押さえ付けていた鏡から手を放して、私は尻もちを突いた。
力ずくで弾き飛ばすよりも、遥かに効果的な方法で。
だけど、一体どうやって……なぜ、ナニかの手が鏡の中ではなく、こっちに出てるの!?
「こっちにぃぃぃぃ、おいでぇぇぇぇぇ!!」
その声と共に、鏡がゆっくりと起き上がって行く。
白い手を支えにして、何としてでも私に鏡を見せようとしているかのように。
そして……鏡が完全に起き上がり、私の方に向いたその時だった。
「桐山さん、ありがとう。良いお湯だったわ」
ガチャリとドアを開け、頭にバスタオルを巻いた影宮さんが部屋の中に入って来たのだ。
その瞬間、鏡の中に引っ込む白い手。
ささえを失った鏡は、パタンと音を立て、再びテーブルの上に伏せた。
影宮さんが入って来たから助かった……のかな。
あと少し、影宮さんが部屋に入って来るのが遅かったら、私は間違いなく殺されていた。
そんな思いからか、私は顔をしかめて、安堵の吐息を漏らした。