身を守る為にと、影宮さんから渡された鏡を、まさか樹森君に向けるなんて思わなかった。


「ここまでね、樹森君。あなたとは気が合うかもしれないと思ったけど……伊達君に毒されたかしら?」


「なんで……なんで伊達君は良いのに、僕だけダメなんだ!いつもこうだ!くそっ!」


鏡を見ないように京介から離れて、床に落とした鏡を拾って階段の方に歩いて行く。


「いてぇ……くそっ、本気で殴りやがって。おい、樹森!俺を殴れるなら、あいつらも殴れるんじゃねえのか?」


殴られた左の頬を押さえて身体を起こし、階段を下りる樹森君に問い掛ける。


京介の言葉を聞いて、一瞬足を止めたけど……首を横に振って、聞こえるかどうかという程度の声で答えた。


「そんな簡単な物じゃないんだよ……ずっといじめられた恐怖は、そう簡単に拭えないんだ。こんなチャンスでもない限りね」


そう言い、踊り場まで下りた樹森君。


このまま、二度と向かう道が交わる事はないのかなと……思って鏡を下ろした時。














「あ……ああ……」














突然、樹森君が怯えた表情に変わり、後ずさりを始めたのだ。


俯いて後退し、鏡があった跡に背中が付いた瞬間。












ゴンッと、頭が壁に当たったと同時に額から血が噴き出したのだ。