パックリ開いた傷跡に胃液がこみ上げ
口の中には酸っぱさが広がり
このまま気絶できたらどんなにいいだろう
夢なら覚めてくれ
でも腕の中で苦しそうな息を吐く松本と、血まみれな俺は現実だ。
「大丈夫だから」
俺はTシャツを脱ぎ
松本の頬をそれで押さえる。
「大丈夫だから」
自分に言い聞かせるように同じセリフを言うと、松本は小さくうなずいて目を閉じる。
月明かりの下
彼女の顔はますます青くなってゆく
出血多量?
ヤバい
震える指で何度も間違いながら七瀬に発信。
「松本を見つけた。大きな怪我してるから救急車呼んで」
『結衣?結衣は無事なの?どこにいるの?』
先に場所を言わなきゃいけないのに、気持ちが焦りすぎている。
「学校。学校のウサギ小屋」
『どうしてそんな場所に?結衣はどうなの?』
「いいから早く救急車呼べ!」
それだけ叫んで電話を切り
今度は町で唯一の医者である
智和おじさんに電話する。
ここから近い。
救急車より先に来てくれるかもしれない。
「しっかりしろよ」
動かない松本を抱きながらそう言い、智和おじさんと連絡を取ってすぐ来てくれる話にホッとする。
虫の声が響き
大きな丸い月が浮かぶ。
誰がこんなひどい事を……。
ドロン山が有名になって、冷やかしにくる町外の奴らも沢山いる。
そいつら?
『モデルになるのが夢』
恥ずかしそうに俺に教えてくれた。
骨まで見えてる、この深い傷跡はずっと残るだろう
「くっそー」
やり場のない怒りと悲しみが俺の身体中を襲った。