「高校新卒で入って、正社員になったら給料高いんだって」
「うん。力入れてるからな」
大きな大きな工場から
なだらかな煙がたなびき
ドロン山に流れて行く
「私もそうして欲しいみたい」
「……そっか」
「ずっとこの町に住んで欲しいんだって」
「それは親の意見だろ」
家の親も言ってる
高卒で公務員試験受けて
町役場で働けって
それがエリートコースと
どの親も思ってる。
「チャンスをつかみたい」
「頑張れ」
「須田君も応援してくれた」
「須田海斗?」
「うん」
松本は小さくうなずき
恥ずかしそうに教えてくれた。
森ちゃんの家の帰りに
散歩中の須田海斗と会い
そのままここら辺を散歩して案内した話。
須田海斗の話す都会の話。
「お父さんは大きな造船会社の社長さんで、大きなお屋敷に住んで別荘も沢山あるんだって」
造船会社
だから
海斗と凪子
海に関係する名前なんだ。
改めて納得。
「テレビ局と出版社の株も持っていて、テレビ局へはフリーパスみたい」
大興奮。
モデル志望の女子にとって
王子様中の王子様。
おまけに顔も良くて
性格も良くて
頭もいい
そんなやつ
本当に実在するんだなぁ。