ほんの一昨日の話なのに
10年か100年前の出来事みたいだ
「日曜日は森ちゃんの家に遊びに行ってた」
「森ちゃんの家?須田海斗とデートじゃなくて?」
「違うって」
力を入れて松本は言う。
「その帰りに偶然会った」
「デートって服装だったけど」
可愛いチェックのワンピースに、遠くからだけど顔もいつもよりちょっと違った。
いつも可愛いけど
メイクしてたような。
「颯大。誰にも内緒だよ」
「おっ……おう」
女子の内緒話は苦手。
「森ちゃんとね。雑誌の読者モデルに応募したんだ」
恥ずかしそうに松本は話を続ける
「そしたら、私が一次を受かってしまって……もう一度写真を送ることになって、森ちゃんに写してもらってたの。いや、きっと運がいいだけで、二次では落ちると思うよ、それに森ちゃんの写し方がよかっただけでさぁ」
恥ずかしいのか
松本は身振り手振りで俺に向かい、一生懸命説明する。
「実力っしょ」
余裕で俺が笑うと
「違うって」
頬をふくらませて松本が怒る。
「恥ずかしいから人に言えないけど、前からの夢だったんだ。モデルって」
「松本ならピッタリじゃん」
「ありがとう」
素直に礼を言い
松本はプルミル工場を遠くに見る。
「うちのお母さんとお父さん。あの工場で働いてるんだ」
「俺の母さんもあそこだよ」
てか町のほとんどが
あそこじゃん。