ふたりきりで見せてくれた
あの楽しそうな笑顔は幻だったかもしれない
人の隙間から凪子を覗くと
凪子は表情も無く
机の中心をジッと見つめ
微動だにせず座っている。
綺麗な黒い髪は
こんな時も輝いていた。
七瀬はズンズンと歩き、輪に加わるので俺も止めようとして一緒に入る。
「はっきりさせよう」
隣のクラスの中心人物でもある女子が、凪子に向かって声を出す。
「須田さん。ウサギを殺した?」
あまりにもストレートな質問に男子はビビる。
女子ってスゲーな。
「昨日須田さんをウサギ小屋で見たって子がいたの。変な葉をあげてたとか、ナイフ持ってたとか……話があるんだけど本当?」
澄んだ声で聞かれても
凪子の返事はない。
表情もない。
「違うなら違うって言ってほしい」
昨日より暑い日差しが容赦なく教室を襲い
汗ばんだ湿気が漂う
くっそー
早くクーラーだけでも入れてくれ!
俺は額の汗を気にしながら凪子を見つめる。
こんなに暑いのに
周りの女子は半袖ブラウスなのに
凪子は長袖ブラウスを着て
人形のように
口を開かず
ただ座っているだけだった。