さよならさえ、嘘だというのなら




「この町に来て……初めて……楽しかった」
町の外れにある小さな公園にたどり着き、凪子は自転車を降りる。

「飛ばしすぎた」
息が切れる。
明日筋肉痛になる自信あり
こんなに自転車をこいだのは
小学校以来かも

「何か飲む?」
自分も自転車を降り
ベンチの近くにそれを置く。

どこかに座って何か飲みたい。
水分補給しないと死ぬ。

着ていたTシャツが汗臭いかも
密着してたから余計気になる。

俺は片手でTシャツをつまみ、裾からパフパフと空気を取り込む。

「楽しかった。ありがとう」

グレーの長袖のパーカーを着ながら、汗ひとつかかず凪子は俺の顔を覗いて微笑み礼を言う。

爽やかな笑顔だった。

あぁこんな顔して笑うんだ。

やっぱり
凪子の目も
海斗に似て色素が薄く茶色い。

「何がいい?」

うっすらと首筋に貼りつく何本かの髪の毛。

その白い首筋から目が離れないのは、智和おじさんいわく『お年頃の男の子だから』

って智和おじさんで思い出す。

ここに来る直前の信号待ちで
真っ赤なジャガーを発見した。

この田舎町で
いかにも金持ってますド派手ジャガーを乗り回すのは、母さんの年の離れた弟である

智和おじさんしかいなかった。

『ヤバい』と思い
顔を見られないように通り過ぎようとしたけれど、向こうは俺に気付き、口をあんぐりさせながら驚いた顔をしてたっけ。

今度会う日が怖い。