「こんにちはー」
俺が言い
「こんばんは」
俺の言葉を訂正するように七瀬が言う。

返事はない。
カンスケさんの視線は遠く
俺達の存在は見えているのかいないのか

今まで一度も返事をされた事はかった。

それでも俺達は
必ずカンスケさんに挨拶をする。

しなければならない。

『カンスケさんはこの町の守り神』
俺達は
両親からきつく伝えられている。

この町は昔から住んでいるのが9割、田舎に憧れて移住&学校の教職員や派出所のおまわりさんなどの移住組がひっくるめて1割。

その1割の人間にとっては、カンスケさんの存在ほど不気味なものはないだろう。
パッと見たらホームレスそのものだから。

風呂のある家に住んでいるはずなんだけど
その前を通り過ぎると濁った香りが漂う。

肩まで伸びた絡まる髪
目がくぼみ頬はこけ
鼻はワシ鼻
汚くて怖い顔をしているけれど

守り神なので
俺達は逆らってはいけないし
悪さもしてはいけない。

何年か前
引っ越してきた教職員の子がカンスケさんに石を投げた事件があったらしく、その教職員はすぐ別の学校へと転勤して行った……と、いう噂話まである。

小学生の頃
学校の自由研究で【カンスケさんの秘密】を調べようとしたら、親と先生にこっぴどく怒られた。

それが
この町の風習というのかオキテである。