部活が終わり
機嫌の悪い俺の隣に、七瀬は並ぶ。
「まだ怒ってんの?」
からかいながら顔を覗く。
「うっせー」
小さく返事をし
七瀬の歩きにスピードを合わせ自転車を押す。
夜の7時前
ほんのり薄暗くなった空に星が出る。
蒸し暑さが涼しさに変わり
歩いていても気持ちいい。
くだらない話を七瀬としながら
学校通りを抜け
商店街の入り口にさしかかると、いつもの場所にカンスケさんが座ってる。
カンスケさん。
どんな字をかくのかも
わからない
何をやっているのかも
わからない
上の名前も年齢も不詳だけど
俺達が小さな頃からずっとそこに居るので
きっと40は超えているはず。
雨の日も風の日も
暑い日も寒い日も
最高気温の時も
最低気温の時も
盆も正月も彼岸も
カンスケさんは黒い偽ブランドのジャージの上下を着て、首には【らくらくホン】のガラケーを下げ、田舎のメインストリートの入口でもある、宮原薬局の前に座っていた。
色あせた大きなカエルの首振り人形の隣
カンスケさんは座ってる。
朝の8時から
夜の8時まで座ってる。
家族はいるのか
仕事はあるのか
正常なのか病気なのか
あのガラケーで誰に電話をかけるのか
誰からかかってくるのか
その支払いは誰なのか
全てが謎である。