その瞬間。






ーーーふ、と、春川の能面みたいに白い顔が、綻んだ。






硬かった蕾が、そっと花開くように。





冷たい雪が、すっと解けるように。






俺は驚いて、目を瞠る。





春川は穏やかな、控えめな、ごく微かな笑みを浮かべて、俺を見上げていた。






その微笑みは、すぐに消えて。







「………委員の子が、今日もお休みだったので……」







校内のざわめきに消えてしまいそうな小さな声で囁き、春川は一枚の紙を俺に差し出してきた。







「………ん。ありがとな、おつかれさん」







俺は小さく頷き、それを受け取った。






春川はぺこりと頭を下げて、踵を返すと、足音も立てずに教室棟のほうに帰っていった。







ーーーやっぱり、不思議な雰囲気をもった生徒だ。






俺は小さな華奢な後ろ姿をしばらく見送ってから、職員室へと戻った。