◇
いつの間にか、空を吹き渡る風に春の薫りが混じるようになっています。
ワンピースの裾が風に揺られてふわふわと踊りました。
その心地よさに目を細めていると、向こうから「春川」と呼ぶ声が聞こえました。
「ごめん、遅くなって。
ちょっと会議が長引いちゃって」
「いえ、平気です」
公園のベンチを立ちあがると、先生が私の頭の先から爪先まで、ぱっと視線を走らせました。
「………先生? どうかしましたか?」
「いや、うん、………私服、かわいいなと思って」
「え………」
照れくさくて思わず俯いていると、「よし、行くか」と先生が言いました。