「俺はもう、完全にあの家に、親父に、嫌気が差してた。


一番安い学生寮に入って、奨学金を申請して、バイト漬けの生活をすれば、仕送りがなくてもやっていける。


これでやっと、親父と縁が切れる、って思った」






今となっては、そこまで一方的に絶縁することなんてなかったと思うけど。




とにかくあの頃は必死で、家のしがらみから離れることしか考えられなかった。






「………実家を出るとき、親父は俺のことを一度も振り返らなかった。


母さんだけは駅まで見送ってくれて。


そこで初めて、母さんに対して申し訳ないと思ったけど。


もう引き返せなくて………。



大学寮に着いて荷物を開いたとき………」






その時のことを思い出すと、ふいに息が詰まった。