「いや、十分だよ。


最近は朝ならずいぶん涼しくなってきたしな。


それにほら、なんかピクニックみたいで、楽しいんじゃないか?」







必死になってそう言うと、春川がふふっと笑みを洩らした。






「そうですね……ふふ、ピクニック」






黒目がちの大きな瞳をゆったりと細めて微笑む春川の顔を見ていると、やっぱり胸が早鐘を打つような気がした。





俺は必死にそのことを頭から振り払った。






ーーーそれ以来、春川と俺は、毎朝、人のいない神社の前で待ち合わせして、境内のベンチで並んで朝飯を食べるようになった。




まだ温かいおにぎりや、かりかりに焼けたトーストは、今まで食べた朝食の中で、いちばん美味いと思った。