でも、意外にも大河原さんは、気にした様子もなく、「ほう。黒毛のアン、ねぇ」と頷いている。






「あたしゃ黒毛和牛か!」






「あっ、ちがうよ、そういう意味じゃなくって………」






「いや、怒ってるとかじゃないから。


てゆーか、なかなか面白いニックネームじゃん。


誰がつけたの?」






「えっ、ごめん、それは知らない。


でも、4月からそう呼ばれてるよ」






「へぇっ、そうなんだ?


そりゃ知らなんだ」







大河原さんは他人事のように、くっくっと笑った。






「で、林くん」





「はいっ?」





「あんたは、なんで、これが欲しいなんて言うわけ?」






大河原さんは、さっき僕が渡した輪ゴムを指先でつまんで、僕の目の前でぷらぷら揺らしている。