「べつに、よかったのに」





「ふぇっ?」






大河原さんの言葉の意図が分からず、僕は間抜けな声を上げてしまう。




恥ずかしくて少し俯くと、大河原さんがさらにくすくす笑った。






「ね。ここだと邪魔だから、こっち」






そう言った大河原さんは、なんと、驚いたことに、僕の手首をつかんできたのだ。




僕が動揺のあまり目を白黒させているうちに、大河原さんはぐいぐいと僕の手を引き、道の端っこにある樹のもとへと導いた。





僕と大河原さんの間には、1メートルの空間もない。



こんなに近くで大河原さんの顔を見るのも、初めてだ。





すらりと長い手足から、かなりの長身を想像していたけど、意外にも僕より10cmは背が低かった。




僕はどきどきしながら、斜め下にある大河原さんの顔を見つめる。




大河原さんがふいっと視線を上げて、僕らの目が合った。