僕は握りしめた拳を、大河原さんのほうにずいっと突き出す。




大河原さんが眉を上げて、「なに?」と言った。




僕は「あっ、ごめん」と慌てて手を開き、掌に乗った輪ゴムを見せる。






「えと、さっきの教室に、忘れていった……から……」





「あ、ほんと? ありがと」






大河原さんはそう言って、僕の掌の上の輪ゴムを手にとった。




白くて、細くて、まっすぐな指だった。





僕がぼんやりと輪ゴムの行く末を見つめていると、くすりと笑う声が聞こえてきた。




僕は慌てて目をあげ、大河原さんの顔を見る。




くっきりとした目を少し細めて、薄い唇を上品につりあげて、大河原さんが、ゆるかやに微笑んでいた。





笑顔を見たのも、もちろん初めてだった。