僕は、初めて、大河原さんの顔を、真正面から見た。




揺るがない真っ直ぐな視線が、僕をとらえている。





僕は、なんだか、息が苦しいような気がした。



頭に血が昇ったように、意識が朦朧としてくるような気分。





さぞ間の抜けた表情をしているであろう僕の顔を、大河原さんの澄んだ黒い瞳が映している。





薄い唇が細く開いて、すうっと空気が吸い込まれていくのが分かった。






「………あたしに、用?」






女性にしては低くて、でも柔らかくてよく通る声。




大河原さんの声を、初めて聴いた瞬間だった。






「ちょっと、あんた、大丈夫?」






不審そうな顔で訊かれて、僕はやっとのことで我に返った。






「あっ、う、ごめん……。


えーと、忘れ物………」