大学生になってから、こんなに本気で走ったことは一度もない。




すぐに横腹がきりきり痛くなって、脚に力が入らなくなってくる。



我ながら情けない。




これから、夜にジョギングでもしようかな……。





そんなことを考えながら坂道を下っていくと、たくさんの学生たちの隙間に、見慣れた真っ直ぐな背中がちらりと見えた。







「―――――大河原さんっ!!」







僕は無意識のうちに、大声で叫んでいた。




叫んでから気がついたけど、僕と大河原さんは、友達でもなんでもない。



というか、僕が一方的に視線を送っていただけで、顔見知りでさえないのだ。





考え無しに声をかけてしまった自分が、急激に恥ずかしくなってきた。





でも。






「………え? あたし」





大河原さんが、すこし怪訝そうな顔で振り向いた。




僕のほうを、振り向いてくれた。