斉藤くんは、誰かから話しかけられると、唇をふるふると震わせる癖がある。



といっても、斉藤くんが話しかけられるシチュエーションなんて、限られているんだけど。


あたしが学級委員の話をするときか、

授業担当の先生が問題を出して、斉藤くんを指名するときか、

のどっちか。



でも、とにかく、どっちの場合でも、斉藤くんはただ唇を震わせて黙っているだけなのだ。


そう、今みたいにね。



不思議なのは、斉藤くんって、誰が何を聞いても押し黙って一言も答えないくせに、けっして顔を俯けたりしないこと。


自分に声をかけてきた人の顔をじっと見て、その言葉をしっかり聞いているようなのに、それでも唇を震わせるだけで返事をしないのだから、謎だ。



そのため、一時期、『もしかして斉藤くんは声が出ない病気とかなんじゃ』、という噂が出回ったこともあった。



………んだけど。


一学期のなかごろ、体育のときに、斉藤くんに野球ボールが当たりそうになったことがあって。


そのときに斉藤くんが、消え入りそうな声で「わっ」と小さく叫んだのを聞いた子が複数名いたため、その噂はすぐに消えた。



要するに、斉藤くんは、


異常に、

信じられないくらい、


とにかく………無口なのだ。