今は、昼休み。

みんな、お弁当や購買のパンを食べながら、きゃっきゃと笑いあったり、ぎゃあぎゃあと冗談を言って小突きあったりしていた。



そんな騒がしい中で、斉藤くんは一人、 別次元にいるかのように微動だにせず、座って読書に勤しんでいる。



「斉藤くん」



あたしが斉藤くんの席の前に立つと、斉藤くんが読んでいる本に影が落ちた。



斉藤くんは、「?」というように眉を少しだけひそめ、顔を上げる。



(斉藤くんは、ぱっつん前髪が長くて目許はよく見えないんだけど、そういう表情をした気配がしたのだ。)



「おはよ」


「……………」


「ちょっと、話があるんだけど」



あたしがにこっと笑って言うと、斉藤くんは本を机の上に伏せて、イヤホンを外した。



「今日のホームルームのことだけどね」


「……………」


「色々決めなきゃいけないことがあって」


「……………」


「あたし一人だと手が足りないからさ」


「……………」


「斉藤くんにも手伝ってほしいんだよね」


「……………」



いつものことながら、会話はまったく成立しない。


というか、完全なる一方通行。



斉藤くんは口を半開きにして、唇をかすかに震わせながら、何も言わずに話を聞いているだけだ。