前髪に覆い隠された眼鏡の向こうの、黒く澄んだ瞳を見つめながら、あたしは話しかけ続ける。





斉藤くんが興味を持ってくれそうなこと、返事をしてくれそうなことを一生懸命考えながら。






「あたしはけっこう芥川龍之介とか好きで、よく読むよ。短編が多いから読みやすいよね」





ふるふる。





「鼻とか芋粥とか、面白いよね。あほくさい話なんだけど、なんか印象に残るし、考えさせられるってゆーか」





ふるふる。





「太宰治だと、人間失格と斜陽は読んだ。すごい引き込まれて、あっという間に読んじゃった。他にオススメとかない?」





ふるふる。






………うーん、だめだ。



うんともすんとも言わない。






いつの間にか、周りには人がずいぶん少なくなっていた。




五人くらいで残ってお菓子を食べながら喋っている女子の集団と、ポータブルゲームに興じる男子の集団がいるだけ。