「なーなせー!!

ちょっと、数学の宿題みせてー!!」



黒板を消していると、隣のクラスの亮子がやってきて、教室の前のドアから顔を覗かせた。


あたしは顔をしかめて、「宿題くらい、自分でやりなさいよね」と言いつつ、教卓の真ん前にある自分の机の中から数学のノートを取り出す。



「ありがと、七瀬!!
まじ助かる!!

七瀬のノート、先生の板書よりきれいだし、解き方のコツまで書いてあるし、もーほんとコレさえあればタナカの授業なんて怖くない!!」



まあまあ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。


あたしは、こういうふうにみんなに頼られたいから、日夜勉学に励んでいるのだ。



亮子が自分のクラスに戻ると、今度は同じクラスの池田が、「小林さま!!」と声をかけてきた。



「なーにー、池田」


「次のリーダー、オレ当たるんだった……この英文の訳、教えてくれーっ!!」


「しょーがないなぁ。一行100円で、請け負ってしんぜよう」


「高っ!!」


「小林七瀬さまの訳は高いのだよ」


「ガリガリ君2本で許して!!」


「よろしい。3本で妥協してやろうじゃないか」


「小林さまさまっ!!」



あたしは池田に拝まれて、気分よく英文を訳してあげた。