空には満月が。

目を細めてそれをしばらく眺めた後、腕を組んで目を閉じる。


「なにか忘れ物、ですか?」

運転手がおそるおそるといった感じで声をかけた。

片目を開ける。


・・・最後の会話になるかもな。


そう思うと、不思議といつものイライラは波を静める。

「そう、忘れ物。1年前からのな」

笑顔まで見せて、健治はそう答えた。

「1年前?あはは、お客さんおもしろいですねぇ。そんなに長い間忘れてたんですか?」