「あの、あのね。亜矢音・・・見なかった?」
知佳がおそるおそるという感じで言った。

「ううん。見て・・・ないけど」

「そう・・・」
ため息をつきながらも、その場から動かず私を見てくる。

何か言おうとしては、口をつぐむようなそぶり。

「富田さん、私に・・・何か用事・・・とか?」

まさか、と思いながらも尋ねる。

知佳が私に話しかけたことなんて、今までなかったから。

「あ・・・うん。実は、そうなの」
うつむいた知佳は、所在なげにうなずく。

入り口だと邪魔になりそうで、脇にそれて話を聞く。