「そっかぁ……今の赤名君があるのは、会長のおかげなんだね」
だからこその尊敬と憧れなんだと、話を聞いて納得した。
「そうだね。まあ、もっちーもかいちょ」
「赤名」
何か言いかけた赤名君を、水樹先輩の柔らかい声が制す。
赤名君はハッとした顔をして。
「わ、あぶなっ。うっかり……。ありがとうございます、水樹先輩」
お礼を言った。
けれどすぐに首を傾げる。
「って……もしかして、先輩も知って……?」
「ちょっとだけね」
「そうなんですね。あ、やば。そろそろ戻らないとだ。じゃー、僕はそろそろドロンしまーす」
「ドロンって。古すぎて逆に新しく聞こえるよね」
そ、そうだろうか。
水樹先輩の感覚はよくわからない。
「頑張ってね」
私が手を振れば、赤名君は手を振りかえしてくれて。
「ありがとー。明日よろしくー」
明日のバイトの事を頼むと、走って廊下の向こうへと去っていった。
赤名君と会長の話し、聞けてよかったな。
「帰りましょうか」
「うん」
校舎から出ると、日暮れ前のまだ青い空が私たちを出迎える。
水樹先輩の隣で夏の陽射しを受けながら、私は
生徒会のみんなが好きだと
心から感じていた。
「日焼けクリームよしっ!」
バイトの日。
大きなハートマークが気に入って買ったタンクトップに、ショートデニムパンツというコーディネートで海の家に立つ私は、バイトが始まる前に日焼け止めクリームを塗った。
しっかりと、念入りに。
思い出したのだ。
このバイトで私は日焼け止めクリームを塗り忘れてしまい、数日間に渡り痛い思いをしたことを。
知っている事は活かし、失敗は繰り返さない!
今の状況がよくわからないとしても、私は私の脳内に残るものを前向きに使う!
「はい、もっちー。これエプロンね」
一人心の中で意気込んでいると、すでに朱色のエプロンをつけた赤名君から同じ色のエプロンを手渡される。
私はそれを受け取り身に着けながら、ここに来る時に聞いた話を思い出していた。
木造作りで畳の敷かれているこの海の家は、赤名君の親戚のもの。
本来なら、店主であるおじさんの仕事を、息子さんとそのお友達が毎年手伝ってくれていたらしいんだけど……
息子さんもお友達も、今年の春に上京してしまい、人手が足りなくなったらしい。
今日までどうにか奥さんやお友達に手伝ってもらってやってきたけど、今日だけはどうしてもおじさんしか店に出れないとのことで、赤名君にSOSが届いた、と。
おじさんは愛想が良く、ガハガハと豪快に笑う人で。
「真奈ちゃん、ヤキソバあがったよ! よろしくぅ~」
「はーい!」
「あー、水樹君。お冷、回ってくれるかい?」
「わかりました」
記憶力がいいらしく、最初の自己紹介の時に、私たちの顔と名前を一発で覚えてくれた。
お盆も過ぎたというのに、ビーチには結構人がいて。
おかげでお店もなかなか忙しい。
確かにこれは人手が必要になるなぁ……
「おい、コタ! ちょっと出張頼めるか」
「いいよー」
赤名君は了承すると、手にメニュー表と注文用紙、最後にペンを持った。
テーブルを片付けていた私は赤名君に声をかける。
「出張って?」
「ビーチにいる人に、カキ氷とかオススメして売るんだよ」
「ああ、なるほど」
って、そういえばこんな会話前にもしたような気が──
『なぁ、望月。赤名のやつ、なんか変じゃない?』
……あ。
そう、だ。
確か、赤名君は、この出張から帰ってきてから……
様子が変わってしまったんだ。
真っ青な顔で帰ってきて、体調が悪いのかと聞いたけれど、赤名君は大丈夫だと笑ってた。
けれど、その後彼は笑うことが少なくなっていって……
私たち生徒会メンバーはそれに気づいていて、気晴らしにとバーベキューを計画した。
その時、赤名君は参加はしたものの、やっぱり前よりも覇気がなかった。
ここから出て行って、戻るまでに何があったんだろう……
私に、何かできることはあるかな?
子猫たちの時のように。
三重野先輩の時のように。
「じゃ、いってきまーすっ」
元気良く挨拶する赤名君の姿を見て、私は咄嗟に──
「私も行きたい!」
お願いしてしまった。
「もっちーも?」
赤名君が首を傾げて。
ふと視線を店内に廻らせれば、少し驚いた様子の水樹先輩やみんなと目が合う。
そんな中、おじさんが大きく笑った。
「真奈ちゃんが行ってくれるなら売り上げアップ! 頼んだぞ、2人とも」
いきなりの申し出にも関わらず、おじさんは気持ちよく許可してくれて。
私たちは、はい、と返事をすると、2人で砂浜に向かった。
赤名君と一緒に砂浜を歩き、お客さんから注文をとる。
そして、どちらかがお店に戻って注文されたものをおじさんから受け取り、届けに行く。
何度かそれを繰り返した頃……
「あれれー? お前、赤名じゃん?」
赤名君と、次のお客さんを探していたところに声がかかった。
私は赤名君と同時に声のした方向を見る。
すると、そこには私たちと同じ年くらいの水着を着た男の子が3人いた。
「赤名君の友達?」
問いかけ、赤名君に視線を向けた瞬間──
私は、直感する。
きっと、彼らが原因だったんだと。
だって……
「あ……う、うん……そう、かな」
赤名君の顔。
「はぁー? 友達だろうが。あー、俺らね、中学ん時のこいつのクラスメイトなんだわ」
こんなに暑い日差しを浴びてるのに……
「なぁ、赤名?」
「うん……」
少し、青白くなってる。
「つか、どこに逃げたかと思ったら、こんなとこにいたのかよ」
「あれか、新しいとこで出直し? そんでまた同じこと繰り返すつもりか」
畳み掛けるように男の子たちに言葉を投げかけられて。
「ち、違うっ」
赤名君は、思い切り否定した。
"逃げたかと思った"
"出直し"
"同じことを繰り返すつもりか"
これらはきっと、昨日聞いた赤名君の過去に関係しているのかもしれない。
『僕、中学の時にちょっと嫌なことがあってさ。人が苦手だったんだ』
嫌なことというのを、この男の子たちは知っていて。
そのことがきっかけで、赤名君は人が苦手になってしまった。
そして、ニヤニヤしながら過去のことを話題にする彼らは、どう見ても嫌な人たちだ。
「ふーん? まあいいや。丁度いいや。俺ら今困ってんだ。助けてくれんなら、昔のこと水に流してやってもいいぜ」
「あれは僕がやったんじゃ……」
「はいはい。それは腐るほど聞いたから。とにかく、ここじゃなんだし場所変えようぜ」
男の子の一人に背中を軽く叩かれて歩くように促される赤名君。