大人気作家・梨が解説!「モキュメンタリーホラー小説の書き方」

2024年11月

この度は「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」の開催、誠におめでとうございます。


作家の梨と申します。

広義のホラージャンルで企画・制作をしています。『かわいそ笑』(イースト・プレス)、「行方不明展」などが比較的有名です。


今回は作り手の目線から、今の環境で「モキュメンタリーホラー小説」を初めて執筆する際のポイントを、以下の3点に分けて書いていきます。

①「モキュメンタリー」はジャンルではなく方法論である

そもそも「モキュメンタリー」とは何でしょうか。これは「モック(疑似的な)」と「ドキュメンタリー」を合わせた造語です


つまり、ドキュメンタリーの演出法を取り入れつつ、フィクショナルな作品を作るとき、そこにはしばしば「モキュメンタリー」という言葉が用いられます。


その構造ゆえにホラーと相性がよく、『食人族(Cannibal Holocaust)』(1980)や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト(The Blair Witch Project)』(1999)など、主に映画や映像作品で様々なヒット作が生み出されています。


最近では「一大流行ジャンル」として扱われることも多いのですが、先述したように「疑似的なドキュメンタリー」であればいいので、モキュメンタリーはジャンルではなく「見せ方」や「作り方」、つまりは方法論のひとつであるということになります。

②「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」はとても難しい縛りである

①を踏まえて、今回の「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」を見てみましょう。


この言葉は4つの要素に分解できますね。つまり、


「モキュメンタリー」と、

「ホラー」と、

「小説」と、

「コンテスト」です。


これはどういうことかというと、

  • 方法論(モキュメンタリー)
  • ジャンル(ホラー)
  • 表現媒体(小説)
  • 発表時期(コンテスト)

以上4つの縛りが課されている、非常に難しいコンテストだということです。


この難しさをまず頭に入れておきましょう。実際に作ってみるとまず絶対に、「あれ、意外とやれることって少ないぞ」と気付くかと思いますが、それは当然です


では、そんな中でどう動けばいいのでしょうか。


「そもそもホラーすら作ったことないのに、しかもモキュメンタリーなんて無理すぎる……」


そんな風に思う方も一定数いることでしょう。そこであなたが念頭に置くべきは ③ の事項です。

あなたの得意分野を蔑ろにする必要はない

① を思い出してみましょう。

モキュメンタリーは単なる方法論でしかありません。


別に「儀式」とか「自己責任」といった言葉が入っていないとモキュメンタリーにならないわけではありません。


特に今回はコンテストですので、流行を念頭に「置きにいった」作品は、佳作には入っても最優秀にはなりづらいと予想できます。


また、より専門的な話をするならば、作り手の視点で見たときのモキュメンタリーの利点として、「嘘を事実っぽく見せられること」というのは正確ではありません。


「事実っぽく見せる」ためにモキュメンタリーがあるのならば、この表現手法はノンフィクションやドキュメンタリーの

完全下位互換だということになってしまいます。


では、モキュメンタリーの真の利点とは何なのでしょうか。


私は、特に小説におけるモキュメンタリーの利点は、「一人称や三人称とも異なる、見かけ上は客観的な視点を複数入れられること」だと考えます。


例えば、ノベマではいわゆる「サイコ系」が人気ですね。監禁、拷問、そういったスプラッター的要素を得意とする方も

多いと思われますが、その得意分野はモキュメンタリーにも活かせます。


誰かを監禁し拷問した形跡のある、謎の廃屋が山中から発見された。

その物品にまつわる情報を調べていくと、そこで死亡が確認された人物は、かつて凄惨ないじめに加担していたことが分かった──


例えばこれなら「復讐系サイコホラー×モキュメンタリー」の作品が作れます。これを起点にしてアイデアを捻っていけば、「その情報を集めていた人はいじめの被害者のひとりだった」などにして、ミステリやサスペンスの要素を入れることで、よりドラマチックにできるかもしれません。


また、梨の著作『お前の死因にとびきりの恐怖を』(イースト・プレス)は、かねてからスターツ出版の愛読者であった梨が、いわゆるブルーライト文芸や青春小説の世界観をモキュメンタリーに接続したらどうなるか、を実験した結果生まれた書籍でした。


つまり、今回のコンテスト投稿作を作るうえでの戦術は


  • どんな「視点」を作中世界につくりだし
  • それをどの「ホラージャンル」に接続するか


という2点に、自ずと絞られていくでしょう。


そのため、狭義のホラー小説を書いたことが無い方でも、それを理由に尻込みする必要はありません。


何故なら、あなたの得意分野を、慣れない「ホラー要素」で潰してしまう必要はそもそも無いからです。むしろ、その得意分野に、「モキュメンタリー」を引き込んでしまえばいいのです。


「この手があったか!」と思わず唸ってしまうような、新たな作品が生まれることを、いち読者として非常に楽しみにしています。


健闘と健筆を祈ります。

プロフィール


梨(なし)

作家の梨と申します。

広義のホラージャンルで企画・制作をしています。『かわいそ笑』(イースト・プレス)「行方不明展」などが比較的有名です。

『お前の死因にとびきりの恐怖を』梨/著(イースト・プレス)

『かわいそ笑』梨/著(イースト・プレス)

『6』梨/著(玄光社)

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