終電を逃した、失恋の夜。 行き場をなくして彷徨ったリカがたどり着いたのは、 深夜だけ開くレコードカフェ──Café Minuit。 フランスの失恋の歌《サンジャンの私の恋人》に涙するリカに、 気だるげな“君”がそっと声をかける。 「この曲、泣くよね」 名前も知らないまま始まった、 一晩だけの静かな時間。 苺のミルフィーユを半分こして、 夜がほんの少しだけ甘くなった。 「夜に名前聞いても、忘れちゃうかもしれないからね」 恋に臆病だった心が、ふたりだけの時間のなかで、 ゆっくり目を覚ましていく。 ――これは、“恋がはじまるその少し手前”の物語。 《登場人物》 リカ（24歳）：デザイン事務所勤務。 失恋と終電をきっかけに、夜の街をさまよう。 トワ（？歳）：深夜のレコードカフェで出会った、 “詩のように静かな”男の子。 ✴︎本文中の詩に関する記述は、ジャック・プレヴェールにインスパイアされた、完全オリジナルの創作です。引用は一切ありませんが、彼のロマンチックな雰囲気を感じていただければ嬉しいです。