門限10分前のチャイムの音に目を覚ます。教室は薄暗くなっていた。体を起こすもそーちゃんの姿は見えない。慌てて夜空の衣装から制服に着替え、衣装を極力丁寧に折り畳んで廊下に出ると「あ、よかった〜、起きた!」とそーちゃんが壁に凭れて座っていた。
「どうしてそこに座ってるの?」
「なんか……テルくんの寝顔見てると……その……ドキドキしちゃって」
「へ?」
「なんでもない! 帰ろ!」
教室の鍵を閉め、職員室に戻してからしばらく同じ道を歩いていく。
「テルくん。今日は本当にありがとう。写真部のみんながテルくんを撮ることになるとは思わなかったけど……」
「でも、新鮮だった。今までのオタク人生にはない刺激で、楽しかったな」
「そう言ってくれると助かるよ」
まさか文化祭で僕の写真で投票されることになるとは思わなかったな。
そのイケメンが地味なオタクであることにいつか気づかれるだろうけど。あまり人と関わってこなかったことが良かったのか、今のところバレていなさそうだった。
「文化祭当日は、テルくんは自由にぶらぶらしてもらっていいから。時間を割いてくれてありがとうね」
別れ道で手を振って、そーちゃんは別の道を歩いていく。
もう、写真家とモデルごっこは終わりか。会うことはないのかな。少々寂しくなりながら、帰路に着く。
*
「……当日は何もしなくていいって話だったじゃん……!」
「テルくん、本当にごめん! 部長が写真部の企画を実行委員に提出したら『このイケメンは誰⁉︎』と騒ぎになって、当日の体育館を使う有志イベントにも『この王子さま呼んで来て欲しい!』という話になって……」
「有志なら僕は拒否出来るよね?」
「有志という名の強制イベントです……」
「……そんなあ」
文化祭当日は使われない図書館に引き篭もって漫画を読み漁ろうと思っていたのに。
「ボクもこうなるのは想定外で」
「その……王子さまになって、何するの」
「体育館の舞台から花道が作られるから、その道をパリコレみたいに歩いて欲しい……って、要望」
「……はぁ〜〜〜〜」
朝のHR前に呼び出されて廊下で会話。あまりの出来事に頭を抱えて屈み込んでしまえば「テルくん……嫌だよね、ごめん……でも放課後まで、ちょっと考えてくれないかな?」とそーちゃんに頼まれ、教室の中に入れと催促するようにチャイムが鳴り。憂鬱な気持ちで教室に戻る。
(断る以外の選択なんて無い――)
「なあ、立花。この写真ってお前だよな?」
サッカー部の坂下くんに声をかけられてスマホを見せられる。そこには数日前、写真部に指示され両手でハートを作って笑っている僕が坂下くんの手のひらにあった。
「……なに、これ」
「写真部から回って、回って、俺のとこに回って来た。『このイケメン誰⁉︎』って文章だけど、これ絶対立花だよな⁉︎」
初めましての人にはバレなかったようだが、クラスメイトにはわかってしまうようだった。
「だってこの前ヤンキーに絡まれたと思ったら写真部に誘われたって言ってたもんな! あのヤンキー原石見つけてたんだ! 俺知らなかったもん、立花がこんなに顔整ってるって! 勿体ねぇよ、前髪重くて顔見えないの」
唐突に前髪を触られて掻き上げられる。視界が一気に明るくなり周りを見渡せば話題になってしまっているのかクラスメイトが僕に注目している。坂下くんから離れて前髪を戻し「やめてよ」と言うも熱は治らないようだった。
「有志イベント出ろよ! 絶対盛り上がるから!」
「ええ……」
もうそんな話まで出回っているのか。SNSは使っているけど、同級生と繋がっていないことが仇となるとは……。
「大丈夫だって! 立花が空気を変えられるように俺らがお膳立てするからさ!」
坂下くんは野球部の矢野くんを連れて来て肩を組む。意味がわからずにただ見上げていると「立花1人じゃ突然のモデル登場にお客さんも『なにこれ?』となると思うけど、何人か面白い系で花道登場して盛り上がった後に空気を掻っ攫っていくんだよ!」と坂下くんは言う。
え。有志イベントに2人出るの?
呆然としていれば矢野くんがため息をついて「実行委員に指名された人は強制だからな」と呟く。
「立花、目立つのとか基本嫌だろこういうの。残念だが、実行委員に目をつけられたら絶対だ。だから……場を盛り上げるのは俺らに任せておけ。立花は、ただ花道を歩くだけでいい」
陰キャの僕が、変に吊し上げられないように。陽キャで面倒見のいい2人が一緒に有志イベントに参加してくれるというの。
他にも「俺もやろっかな〜」と手を上げるバドミントン部や卓球部の人たちがいた。花道を歩く人が僕だけじゃなくなるなら、僕もその大勢の1人に混ざることが出来る。
「な、やろーぜ立花!」
坂下くんが明るく僕に声をかける。
陰キャでオタクな僕が、表立った場所にいてもいいのだろうか。
「1年に1回しかない文化祭だ。立花だって楽しまなきゃ損……だろ?」
矢野くんが目線を合わせて、優しく言う。
少し先の未来を想像する。
そーちゃんはきっと喜んで僕をまたプロデュースする。
僕の髪に触れて、顔に触れて、キスが出来そうなくらい顔が近くなって……。
有志イベントに参加するということはあの瞬間を、また味わえるということだ。
「……わかった。参加する。矢野くん、坂下くん……それから、みんなありがとう……」
クラスメイトに声をかけると「モデル頑張れよ〜」と声をかけてもらえた。いつもクラスの外にいたと思ったのに。今は中心部にいるようで、そーちゃんといる時とはまた違う意味で顔が熱くなっていく。
朝のHRが始まり担任の教師が連絡事項を説明していく中、僕は机の下で『有志イベント、出ようと思う』とスマホで文字を打ちそーちゃんに連絡した。
返信はすぐに返ってくる。
『嬉しい! また最高にカッコいい王子さまに出会えるね!』
ニコニコしてるそーちゃんの顔を想像し、口元がニヤける。
陰キャでオタクな僕は、モデルになっている間だけはそーちゃんの王子さまだ。
「どうしてそこに座ってるの?」
「なんか……テルくんの寝顔見てると……その……ドキドキしちゃって」
「へ?」
「なんでもない! 帰ろ!」
教室の鍵を閉め、職員室に戻してからしばらく同じ道を歩いていく。
「テルくん。今日は本当にありがとう。写真部のみんながテルくんを撮ることになるとは思わなかったけど……」
「でも、新鮮だった。今までのオタク人生にはない刺激で、楽しかったな」
「そう言ってくれると助かるよ」
まさか文化祭で僕の写真で投票されることになるとは思わなかったな。
そのイケメンが地味なオタクであることにいつか気づかれるだろうけど。あまり人と関わってこなかったことが良かったのか、今のところバレていなさそうだった。
「文化祭当日は、テルくんは自由にぶらぶらしてもらっていいから。時間を割いてくれてありがとうね」
別れ道で手を振って、そーちゃんは別の道を歩いていく。
もう、写真家とモデルごっこは終わりか。会うことはないのかな。少々寂しくなりながら、帰路に着く。
*
「……当日は何もしなくていいって話だったじゃん……!」
「テルくん、本当にごめん! 部長が写真部の企画を実行委員に提出したら『このイケメンは誰⁉︎』と騒ぎになって、当日の体育館を使う有志イベントにも『この王子さま呼んで来て欲しい!』という話になって……」
「有志なら僕は拒否出来るよね?」
「有志という名の強制イベントです……」
「……そんなあ」
文化祭当日は使われない図書館に引き篭もって漫画を読み漁ろうと思っていたのに。
「ボクもこうなるのは想定外で」
「その……王子さまになって、何するの」
「体育館の舞台から花道が作られるから、その道をパリコレみたいに歩いて欲しい……って、要望」
「……はぁ〜〜〜〜」
朝のHR前に呼び出されて廊下で会話。あまりの出来事に頭を抱えて屈み込んでしまえば「テルくん……嫌だよね、ごめん……でも放課後まで、ちょっと考えてくれないかな?」とそーちゃんに頼まれ、教室の中に入れと催促するようにチャイムが鳴り。憂鬱な気持ちで教室に戻る。
(断る以外の選択なんて無い――)
「なあ、立花。この写真ってお前だよな?」
サッカー部の坂下くんに声をかけられてスマホを見せられる。そこには数日前、写真部に指示され両手でハートを作って笑っている僕が坂下くんの手のひらにあった。
「……なに、これ」
「写真部から回って、回って、俺のとこに回って来た。『このイケメン誰⁉︎』って文章だけど、これ絶対立花だよな⁉︎」
初めましての人にはバレなかったようだが、クラスメイトにはわかってしまうようだった。
「だってこの前ヤンキーに絡まれたと思ったら写真部に誘われたって言ってたもんな! あのヤンキー原石見つけてたんだ! 俺知らなかったもん、立花がこんなに顔整ってるって! 勿体ねぇよ、前髪重くて顔見えないの」
唐突に前髪を触られて掻き上げられる。視界が一気に明るくなり周りを見渡せば話題になってしまっているのかクラスメイトが僕に注目している。坂下くんから離れて前髪を戻し「やめてよ」と言うも熱は治らないようだった。
「有志イベント出ろよ! 絶対盛り上がるから!」
「ええ……」
もうそんな話まで出回っているのか。SNSは使っているけど、同級生と繋がっていないことが仇となるとは……。
「大丈夫だって! 立花が空気を変えられるように俺らがお膳立てするからさ!」
坂下くんは野球部の矢野くんを連れて来て肩を組む。意味がわからずにただ見上げていると「立花1人じゃ突然のモデル登場にお客さんも『なにこれ?』となると思うけど、何人か面白い系で花道登場して盛り上がった後に空気を掻っ攫っていくんだよ!」と坂下くんは言う。
え。有志イベントに2人出るの?
呆然としていれば矢野くんがため息をついて「実行委員に指名された人は強制だからな」と呟く。
「立花、目立つのとか基本嫌だろこういうの。残念だが、実行委員に目をつけられたら絶対だ。だから……場を盛り上げるのは俺らに任せておけ。立花は、ただ花道を歩くだけでいい」
陰キャの僕が、変に吊し上げられないように。陽キャで面倒見のいい2人が一緒に有志イベントに参加してくれるというの。
他にも「俺もやろっかな〜」と手を上げるバドミントン部や卓球部の人たちがいた。花道を歩く人が僕だけじゃなくなるなら、僕もその大勢の1人に混ざることが出来る。
「な、やろーぜ立花!」
坂下くんが明るく僕に声をかける。
陰キャでオタクな僕が、表立った場所にいてもいいのだろうか。
「1年に1回しかない文化祭だ。立花だって楽しまなきゃ損……だろ?」
矢野くんが目線を合わせて、優しく言う。
少し先の未来を想像する。
そーちゃんはきっと喜んで僕をまたプロデュースする。
僕の髪に触れて、顔に触れて、キスが出来そうなくらい顔が近くなって……。
有志イベントに参加するということはあの瞬間を、また味わえるということだ。
「……わかった。参加する。矢野くん、坂下くん……それから、みんなありがとう……」
クラスメイトに声をかけると「モデル頑張れよ〜」と声をかけてもらえた。いつもクラスの外にいたと思ったのに。今は中心部にいるようで、そーちゃんといる時とはまた違う意味で顔が熱くなっていく。
朝のHRが始まり担任の教師が連絡事項を説明していく中、僕は机の下で『有志イベント、出ようと思う』とスマホで文字を打ちそーちゃんに連絡した。
返信はすぐに返ってくる。
『嬉しい! また最高にカッコいい王子さまに出会えるね!』
ニコニコしてるそーちゃんの顔を想像し、口元がニヤける。
陰キャでオタクな僕は、モデルになっている間だけはそーちゃんの王子さまだ。



