僕はあなたの星になる

 そーちゃんに誘導されるまま、背景紙の前に立つ。「足を少し広げて、両手はズボンの中に入れて」と指示をされ僕は言う通りに従う。

 真っ直ぐに見つめていれば、ファインダーを覗き込んだそーちゃんがシャッターを切る。視界が一瞬強く真っ白になり、思わず瞬きするとそーちゃんはプレビューで確認していた。

「……やっぱまだ表情が硬いかな」
「ごめん」
「謝らないで。ボクが……テルくんの良い表情を引き出せてないだけだから」

 それも写真家のお仕事なのだろうか。しっかりした表情を作るのはモデルの役割な気もするけれど。

「……どういう表情すればいい、かな」
「特に決まってないよ」
「そうなの? なんか、お星さまっぽい顔してとか」
「ふふ、テルくんボクからそんな無茶振りされて、対応出来るの?」

 カメラから一度顔を離したそーちゃんは僕を見て可笑しそうに笑っている。

(お星さまっぽい顔して、とか。確かにどんな指示だよ)

 今のは僕が変なこと言ったな、と苦笑すればカシャ、とシャッターが切られ視界が眩しくなる。

「また不意打ち? 僕が決めた瞬間ってなくない?」
「でも見て。柔らかく笑ってる。良い表情だよ」

 そーちゃんに見せられたプレビュー画面は、確かに普段の僕ではない姿があった。

「変にポーズとか表情作るのはやめよ。自然体にしよ。ボクと会話しながら……撮ってみよ」
「うん」

 写真部なだけあるのか、そーちゃんは「これだ」と思った時の一瞬を逃すことがなかった。

 写真家とモデルとして対峙しているのに、僕たちは普段通りの会話をしていく。たまにパシャ、と撮られていくだけ。

「テルくん、昨日は学校休みだったけど、何して過ごしたの?」
「昨日は……宿題して、それからほとんど漫画読んで――」

 思い出そうと顔を俯けた時瞬間に、パシャリ。

「そーちゃんは?」
「ボク……は、見ての通りだけど、ジャケットとズボンに装飾して殆ど1日が終わって」
「うん」
「朝方になって、宿題やってないことに気付いて。朝早く学校来て無理やり終わらせたかな」
「そうだったんだ。大変だったね」
「宿題がね。装飾は、楽しかったしあっという間だったよ」

 この日のために。作ってくれたもの。楽しみに待ってくれていたもの。
 じわじわと、胸が熱くなっていく。
 僕も、良い写真に仕上げたい。

 でもプロではない僕はどんな立ち姿がいいとか、表情が良いのかとかわからない。そーちゃんも教えてくれない。ただ「自然体でいい」「ボクと会話してくれたらいい」とだけ伝えてくれる。

 だから僕はそーちゃんを信じて、ただ会話をする。

「紺色のジャケットに小さな宝石(ラインストーン)散りばめて、天の川に見立てるっていうのが……斬新で……結構好きだな、僕」

 パシャ。

「え、そ、そう? 嬉しいな。王子さまにそう言ってもらえるなんて」
「……顔赤いよ、そーちゃん」
「そ、そりゃ! テルくんに褒めてもらえたら……さ!」
「えー。僕もスマホでそーちゃんの写真撮りたい」
「だ、だめ! 動かないで!」
「なんでー」

 動く素振りをすれば、慌てて止められる。あまりの必死さに笑えばパシャ、パシャッと連続で視界が眩しくなる。

「……うん。とても、良い」

 そーちゃんが満足しているからプレビューを覗いてると、動いていたからブレている。それでも僕がどんな表情なのかわかる。

「展示出来るかはわからないけど、味があるかも……」
「笑った顔はたくさん撮れたし、次は顔じゃなくて衣装メインに撮るよ。じゃあ次は後ろを向いて……顔だけ右に向けて……そう!」

 パシャッ。

 背中がメインに天の川だから。僕も見てもらいたいから。体を斜めにして顔と一緒に。少し伏せ目にして、アンニュイなように。

「椅子に座って撮影してみよ?」

 どんなポーズがいいのだろう。そーちゃんから特に指示はなかった。だからまずは僕のやりたいように……深く腰掛け、前のめりになるけど、右膝に右肘をついて、頬杖を取る感じ……とかにしてみる。

「お、おお……!」

 そーちゃんからそんな声が漏れ、パシャリと撮られる。「うん、いい感じ! カッコいい!」と(おだ)てられ、数枚ごとにただ深く座るだけだったり、足を組んだり……などとポーズを変えていく。

 全ては。

「テルくん……王子さま……カッコいい……」

 目の前のそーちゃんを喜ばせたい一心で。

 30分を予定していた撮影は、お互いの気持ちが昂ったこともあり60分を超えるものとなっていた。

 次にこの教室を予約していた写真部に「まだー?」と声をかけられ、僕たちは慌てて荷物を纏めて教室を飛び出したのだった。僕は夜空の王子さまのまま。