「まだ未成年だし学生だから、大きな仕事は任せられないのだけれど。先に予約してもいい? もう少し先の未来、羽山くんと共演してほしいなって」
将来はマネージャー、もしくは社長になるであろう白百合さんから提案が来た。SNSを活用したら、ありがたいことにフォロワーが5桁になっていた。そうなると、管理しているそーちゃんの元に『お仕事しませんか』と色んな事務所からオファーがあった。
未成年であり大人の準備期間でもあるから「今はまだ……ね」と丁寧に断った。迂闊に乗っかって、怪しい人たち騙されるかもしれないから。僕たちには、見抜ける力がないから。だから、ゆくゆくはホワイトリリー事務所を通して仕事を貰うのが1番安全だと気付く。
「羽山くん、頑張ってるんだ」
「でも中々気難しくてね〜……羽山くんのペースや無理難題についていけないモデルが多くて」
「……それで、僕にオファーが?」
「羽山くんに歯向かえるのは立花くんしかいなかったって、佐久間さんが」
サクマさん改め、佐久間さん。
暴君で、周りの人が手を焼いているのだと想像して苦笑する。
「一度顔合わせして写真撮ってみない? 藍田くんのカメラで」
*
……ということで、急遽放課後に事務所に向かい羽山くんと対面する。
「相変わらずボケた顔してんなあ。こんな奴がSNSでモデル気取りしてんの? あとカメラマンもこんなちんちくりんが撮るの不安なんだけど」
開口一番羽山節を聞いて苦笑するも、ちんちくりんと言われたそーちゃんは「はぁ⁉︎」とガン飛ばした。
「何言ってんのよ。どちらもまだアマチュアなんだから料金発生するモデルにはなってないのよ。そこに学生のカメラマンがいたって不思議じゃないじゃない」
白百合さんが一喝し、僕と羽山くんを背景紙の前に並ばせる。ぷんすか怒ったままそーちゃんはカメラをセッティングし、その隣には佐久間さんが「ごめんね〜」と柔らかく謝っていた。
「……佐久間さん、来てくれたんだね」
羽山くんだけに聞こえる声量で声をかければ、イラついていた彼は佐久間さんを見つめ……「オレ1人じゃ心配だからって言われた」と返ってくる。
「心配?」
「要らない言葉で相手を怒らせたり、相手を泣かせそうで心配だって……おい、笑うなよ!」
「ご、ごめん……ははっ、案外子供っぽくて可愛いなあ」
変質者からてっきり守ってもらってるのかと思えば。佐久間さんは羽山くんの保護者みたいだった。
笑ってしまえば顔を赤くした羽山くんに脇を抓られる。「痛いよ〜」と返せば「あ、あ〜!」とそーちゃんが目敏く見つけてカメラを放って羽山くんにズカズカ近づく。
「テメェ! テルに何しやがる!」
「え、可愛い子だと思ったら治安悪い……」
「次手を出してみろ! ぶっ飛ばすからな!」
その声量は凄まじく、スタジオ内に響き渡る。見た目がヤンキーなだけあって、しっかり怒るとそーちゃんは怖い。
そんなそーちゃんに気圧されたのか羽山くんは罰の悪そうな顔になって「……っす」と大人しく脇腹から手を離した。
「……流石、番犬だね」
「テルは……ボク……オレの王子さまだから」
短く会話して、そーちゃんは定位置に戻っていく。
そーちゃんに来てもらってよかった。SNSも、そーちゃんに管理してもらってよかった。
僕に変なことしようとする人は、番犬に噛まれるぞ。
絶対的な安心感がある僕は、伸び伸びと力を抜いて被写体になることが出来る。
今日のスポンサーは白百合さんなので、彼女の「ダイヤモンドと真珠が並んでいるように」という声かけに僕と羽山くんは顔を引き締める。
佐久間さんが学生主体の空間を見守る中、そーちゃんは脚立に登り、僕たちを上から撮っていく。
「羽山くんはランウェイとか、テレビとか沢山出たい?」
撮られながら、隣の羽山くんに尋ねる。
「有名になりたいからな。お前は?」
「僕は……SNSだけでいいかな。こうやって、たまに仕事で呼ばれて仕事をするだけで十分」
「ふん。無欲だな」
鼻で笑われたけど。無欲……ではないと思うな。
「そーちゃんが絶対そばにいないとやだ。どんな仕事もしない。それだけは決めてる。僕だけのオファーはお断りするよ」
「……無欲というか、クセ強というか……」
「面倒臭い?」
「……まあ。なんでも受け入れるつもりの俺と比べたら」
お互いに強い意志はある。それぞれの方針が違うだけで。今後、羽山くんはメディアに露出して有名になるだろう。変な言葉を発言して炎上しないようにね。
「ダイヤモンドと真珠……ね」
意外と僕たちを表している言葉かも。
「僕たち、良いライバルになれるかもね」
そう言いながら、そーちゃんを見上げる。目が合う。どちらからともなく微笑んで、シャッターが切られる。
僕の一番星――そーちゃんは足を踏み外して、大きく仰け反った。……危ない!
「――そーちゃんッ‼︎」
咄嗟に走って手を伸ばし、腕を引き寄せて床に打ちつけそうになった後頭部を手で抱えて守る。
ゴン、と鈍い音と共に頭を抱えた右手に強い痛み。
「……テルくん!」
そーちゃんが泣きそうな顔で僕の右手を見る。
「ごめん、ボクが足を踏み外して……っ」
「そーちゃん怪我はない?」
「ない、けど……」
「じゃあ、よかった」
頭を打ちつけたらもっと大変だ。
大丈夫とは言ったけれど、右手はどんどん腫れていき撮影は中断になった。「モデルが怪我してるんじゃないよ」なんて羽山くんに呆れられてしまったが、見過ごすことは出来ない。
「……ごめん、テルくん……」
酷く落ち込んで氷水を右手に当ててくれるそーちゃん。
『怪我させて、ごめんなさい……』
泣きながら、絆創膏を手渡してくれた黒髪の小柄な男子。姿が重なる。
「……思い出した」
*
高校1年生の頃。社会見学で電車に乗らないといけない時があった。学校ではなく現地集合だったため、満員電車に揉まれてげんなりしていた時。斜め前にいる黒髪の小さな男子生徒がぶるぶる震えていた。
体調悪いのかと声をかけたが、ハッとした顔で見上げられて……拍子にポロッと涙がこぼれ落ちる。
『どうしたの』
『……ち』
『ち?』
『……っ、』
言葉に出来ないようだった。気がかりで、もう少し近づいたところで……背後から体を撫で回されていることに気付いた。
男の手を掴みホームに引き摺り出そうとしたが未成年では大柄な男に敵わず。どんどん車内の奥へ連れて行かれそうになる男子生徒を抱えてホームに飛び出した。バランスを崩して倒れ込み、慌てて頭を抱える。
幸い男子生徒に怪我は無かったようだ。痛む右手と、打ちどころが悪く切れた口元を見――男子生徒は『ごめんなさい』とずっと頭を下げて謝っていた。
いくら泣き止ませようとしても顔は俯けられるばかりで、こちらまで胸が痛くなる。それだけ怖い思いをしたんだ。泣いてる顔を一瞬見ただけだから覚えることが出来なかった。当時は、二次元しか興味無かったし。
『あ、あの……これ』
手渡されるのは絆創膏。受け取ると『本当に、ごめんなさい』と深く頭を下げて、そのまま走り去ってしまった。
ホームに取り残された僕は、絆創膏を使うには勿体なく感じ、手帳型のスマホケースに差し込んで――。
*
急いで鞄が置いてあるメイク室に戻りスマホを取り出す。パカッと手帳型を開いた時……差し込まれている絆創膏。
「いつ入れたんだっけ……って忘れてたけど。黒髪だった頃のそーちゃんに貰ったものだったんだ……」
痴漢に遭ったそーちゃんを助けて。
階段から落ちそうになったそーちゃんを助けて。
今回脚立からずり落ちたそーちゃんを助けた。
「……テルくんは、僕の王子さまだよ」
メイク室までついてきたそーちゃん。「ごめんね」とまた謝って、背後からぎゅう、と抱きつく。
「そっか。思い出した。僕って結構男前じゃない?」
「そうだよ! ずっと言ってるじゃん! テルくんは本当にカッコいいって!」
「あはは、ごめん」
でも。僕だって何度もそーちゃんに助けられているんだよ。僕にとっては、そーちゃんが王子さまだ。
僕たちはお互いを憧れの存在として見ている。
それぞれの存在が、一番星。
だから、輝ける。
「そーちゃんに出会えて良かった」
「ボクも……オレも。テルくんに出会えて……やっぱり王子さまはテルくんだったんだって、気付けて良かった」
メイク室に誰もいないのをいいことに、僕たちはそっとキスをする。
僕、高校卒業したらもっと良い被写体になるように努力するから。
僕を撮り続けてね。
ずっと僕を好きでいてね、そーちゃん。
僕の一番星。
僕はあなたの星になる【完】
将来はマネージャー、もしくは社長になるであろう白百合さんから提案が来た。SNSを活用したら、ありがたいことにフォロワーが5桁になっていた。そうなると、管理しているそーちゃんの元に『お仕事しませんか』と色んな事務所からオファーがあった。
未成年であり大人の準備期間でもあるから「今はまだ……ね」と丁寧に断った。迂闊に乗っかって、怪しい人たち騙されるかもしれないから。僕たちには、見抜ける力がないから。だから、ゆくゆくはホワイトリリー事務所を通して仕事を貰うのが1番安全だと気付く。
「羽山くん、頑張ってるんだ」
「でも中々気難しくてね〜……羽山くんのペースや無理難題についていけないモデルが多くて」
「……それで、僕にオファーが?」
「羽山くんに歯向かえるのは立花くんしかいなかったって、佐久間さんが」
サクマさん改め、佐久間さん。
暴君で、周りの人が手を焼いているのだと想像して苦笑する。
「一度顔合わせして写真撮ってみない? 藍田くんのカメラで」
*
……ということで、急遽放課後に事務所に向かい羽山くんと対面する。
「相変わらずボケた顔してんなあ。こんな奴がSNSでモデル気取りしてんの? あとカメラマンもこんなちんちくりんが撮るの不安なんだけど」
開口一番羽山節を聞いて苦笑するも、ちんちくりんと言われたそーちゃんは「はぁ⁉︎」とガン飛ばした。
「何言ってんのよ。どちらもまだアマチュアなんだから料金発生するモデルにはなってないのよ。そこに学生のカメラマンがいたって不思議じゃないじゃない」
白百合さんが一喝し、僕と羽山くんを背景紙の前に並ばせる。ぷんすか怒ったままそーちゃんはカメラをセッティングし、その隣には佐久間さんが「ごめんね〜」と柔らかく謝っていた。
「……佐久間さん、来てくれたんだね」
羽山くんだけに聞こえる声量で声をかければ、イラついていた彼は佐久間さんを見つめ……「オレ1人じゃ心配だからって言われた」と返ってくる。
「心配?」
「要らない言葉で相手を怒らせたり、相手を泣かせそうで心配だって……おい、笑うなよ!」
「ご、ごめん……ははっ、案外子供っぽくて可愛いなあ」
変質者からてっきり守ってもらってるのかと思えば。佐久間さんは羽山くんの保護者みたいだった。
笑ってしまえば顔を赤くした羽山くんに脇を抓られる。「痛いよ〜」と返せば「あ、あ〜!」とそーちゃんが目敏く見つけてカメラを放って羽山くんにズカズカ近づく。
「テメェ! テルに何しやがる!」
「え、可愛い子だと思ったら治安悪い……」
「次手を出してみろ! ぶっ飛ばすからな!」
その声量は凄まじく、スタジオ内に響き渡る。見た目がヤンキーなだけあって、しっかり怒るとそーちゃんは怖い。
そんなそーちゃんに気圧されたのか羽山くんは罰の悪そうな顔になって「……っす」と大人しく脇腹から手を離した。
「……流石、番犬だね」
「テルは……ボク……オレの王子さまだから」
短く会話して、そーちゃんは定位置に戻っていく。
そーちゃんに来てもらってよかった。SNSも、そーちゃんに管理してもらってよかった。
僕に変なことしようとする人は、番犬に噛まれるぞ。
絶対的な安心感がある僕は、伸び伸びと力を抜いて被写体になることが出来る。
今日のスポンサーは白百合さんなので、彼女の「ダイヤモンドと真珠が並んでいるように」という声かけに僕と羽山くんは顔を引き締める。
佐久間さんが学生主体の空間を見守る中、そーちゃんは脚立に登り、僕たちを上から撮っていく。
「羽山くんはランウェイとか、テレビとか沢山出たい?」
撮られながら、隣の羽山くんに尋ねる。
「有名になりたいからな。お前は?」
「僕は……SNSだけでいいかな。こうやって、たまに仕事で呼ばれて仕事をするだけで十分」
「ふん。無欲だな」
鼻で笑われたけど。無欲……ではないと思うな。
「そーちゃんが絶対そばにいないとやだ。どんな仕事もしない。それだけは決めてる。僕だけのオファーはお断りするよ」
「……無欲というか、クセ強というか……」
「面倒臭い?」
「……まあ。なんでも受け入れるつもりの俺と比べたら」
お互いに強い意志はある。それぞれの方針が違うだけで。今後、羽山くんはメディアに露出して有名になるだろう。変な言葉を発言して炎上しないようにね。
「ダイヤモンドと真珠……ね」
意外と僕たちを表している言葉かも。
「僕たち、良いライバルになれるかもね」
そう言いながら、そーちゃんを見上げる。目が合う。どちらからともなく微笑んで、シャッターが切られる。
僕の一番星――そーちゃんは足を踏み外して、大きく仰け反った。……危ない!
「――そーちゃんッ‼︎」
咄嗟に走って手を伸ばし、腕を引き寄せて床に打ちつけそうになった後頭部を手で抱えて守る。
ゴン、と鈍い音と共に頭を抱えた右手に強い痛み。
「……テルくん!」
そーちゃんが泣きそうな顔で僕の右手を見る。
「ごめん、ボクが足を踏み外して……っ」
「そーちゃん怪我はない?」
「ない、けど……」
「じゃあ、よかった」
頭を打ちつけたらもっと大変だ。
大丈夫とは言ったけれど、右手はどんどん腫れていき撮影は中断になった。「モデルが怪我してるんじゃないよ」なんて羽山くんに呆れられてしまったが、見過ごすことは出来ない。
「……ごめん、テルくん……」
酷く落ち込んで氷水を右手に当ててくれるそーちゃん。
『怪我させて、ごめんなさい……』
泣きながら、絆創膏を手渡してくれた黒髪の小柄な男子。姿が重なる。
「……思い出した」
*
高校1年生の頃。社会見学で電車に乗らないといけない時があった。学校ではなく現地集合だったため、満員電車に揉まれてげんなりしていた時。斜め前にいる黒髪の小さな男子生徒がぶるぶる震えていた。
体調悪いのかと声をかけたが、ハッとした顔で見上げられて……拍子にポロッと涙がこぼれ落ちる。
『どうしたの』
『……ち』
『ち?』
『……っ、』
言葉に出来ないようだった。気がかりで、もう少し近づいたところで……背後から体を撫で回されていることに気付いた。
男の手を掴みホームに引き摺り出そうとしたが未成年では大柄な男に敵わず。どんどん車内の奥へ連れて行かれそうになる男子生徒を抱えてホームに飛び出した。バランスを崩して倒れ込み、慌てて頭を抱える。
幸い男子生徒に怪我は無かったようだ。痛む右手と、打ちどころが悪く切れた口元を見――男子生徒は『ごめんなさい』とずっと頭を下げて謝っていた。
いくら泣き止ませようとしても顔は俯けられるばかりで、こちらまで胸が痛くなる。それだけ怖い思いをしたんだ。泣いてる顔を一瞬見ただけだから覚えることが出来なかった。当時は、二次元しか興味無かったし。
『あ、あの……これ』
手渡されるのは絆創膏。受け取ると『本当に、ごめんなさい』と深く頭を下げて、そのまま走り去ってしまった。
ホームに取り残された僕は、絆創膏を使うには勿体なく感じ、手帳型のスマホケースに差し込んで――。
*
急いで鞄が置いてあるメイク室に戻りスマホを取り出す。パカッと手帳型を開いた時……差し込まれている絆創膏。
「いつ入れたんだっけ……って忘れてたけど。黒髪だった頃のそーちゃんに貰ったものだったんだ……」
痴漢に遭ったそーちゃんを助けて。
階段から落ちそうになったそーちゃんを助けて。
今回脚立からずり落ちたそーちゃんを助けた。
「……テルくんは、僕の王子さまだよ」
メイク室までついてきたそーちゃん。「ごめんね」とまた謝って、背後からぎゅう、と抱きつく。
「そっか。思い出した。僕って結構男前じゃない?」
「そうだよ! ずっと言ってるじゃん! テルくんは本当にカッコいいって!」
「あはは、ごめん」
でも。僕だって何度もそーちゃんに助けられているんだよ。僕にとっては、そーちゃんが王子さまだ。
僕たちはお互いを憧れの存在として見ている。
それぞれの存在が、一番星。
だから、輝ける。
「そーちゃんに出会えて良かった」
「ボクも……オレも。テルくんに出会えて……やっぱり王子さまはテルくんだったんだって、気付けて良かった」
メイク室に誰もいないのをいいことに、僕たちはそっとキスをする。
僕、高校卒業したらもっと良い被写体になるように努力するから。
僕を撮り続けてね。
ずっと僕を好きでいてね、そーちゃん。
僕の一番星。
僕はあなたの星になる【完】



