僕はあなたの星になる

「そーちゃん? どうしたの⁉︎」

 慌てて駆け寄ると警備員さんに「え、知り合い?」と尋ねられる。僕はそーちゃんを見つめたままコクコク頷き、体を掴まれていたそーちゃんは解放された。

 目の前に来たそーちゃんは僕を見上げる。大きな目の中にきらきら光る星。

「防犯ブザーが鳴った通知がスマホに来て」
「……あ」
「ホワイトリリー事務所にいるって、わかったから」
「……わざわざ来てくれたの?」

 口元をモゴモゴさせて。
 俯いて……意を決したようにもう一度顔を上げて目が合う。
 
「テルくんに……何か遭ったら、耐えられないから」

 きゅんって。
 胸がときめいた。心拍数が一気に跳ね上がったけど、それは緊張ではなくて。
 心と体の体温が上がった。

「……そーちゃん……大好き」
「うん。……う、え? え、なに?」
「好きだよ、そーちゃん……だいすき、なんだよう……」

 気づくのがもう少し早かったら、この事務所まで来て遠回りすることもなかったかもしれない。でも、どのみち僕たちギクシャクしてたから、学校にいても距離は遠のいたままだったのかな。

 じゃあ、この事務所に来たのも意味はあったのかな。

 僕はそーちゃんに撮られたい。
 髪型も、メイクも。全て任せられるのは、そーちゃんだけ。
 それに気づくのに時間かかった。

 気持ちが溢れてぽろっと口にしてしまえば、そーちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。

「わ、わ……」
「そーちゃん?」
「そんな、あっさり……口にする? オレたち、同性で……きっと、変な目で見られると思う……」

 僕はそーちゃんが好きだけど。
 そーちゃんの気持ちはどうなんだろう。案外世間体とか気にしているのはそーちゃんの方。

「……迷惑だったなら、ごめん」
「いや、あの……」
「そうだよね、そーちゃん……最近ずっと僕のことつまらなそうに見てたもんね……そーちゃんにとって僕は文化祭までが良い被写体だったのかな」
「ちがっ……」
「防犯ブザーも、無理に買わせてごめんね」
「……」

 そーちゃんはまた口をモゴモゴさせて、何か伝えようとして、口を閉ざす。

「……わざわざ心配して来てくれたのにごめん。じゃあ、僕帰るね――」

 そーちゃんの元を通り過ぎ、歩いていこうとした。

「あー! (じれ)ったいー! 番犬のくせに! なんで1番大事な時に言葉に出来ないのよー!」

 一部始終を見ていた白百合さんが叫び肩が竦む。しまった、彼女がいたのに告白(まが)いのことをしてしまった。

「ほんっとにこの2人は! 引っ込み思案で度胸が無い! 相手のことはよく考えるくせに自分の気持ちを(ないがし)ろにしてー! いい加減、心の中にある(くすぶ)った気持ちをぶつけろー、馬鹿ー!」

 白百合さんが僕たちに叫ぶ。
 彼女の言葉が、今の僕たちを表している。
 ……だとすると、僕たちって本当に情けないのでは?

 相手を想うあまり、自分の気持ちを打ち明けられずギクシャクした関係になる。もし、本音を言い合えたら。

「……テルくん」

 深呼吸したそーちゃんが、僕の前に来る。目を見つめると「何から、説明したらいいのかわからないけど……」と口をモゴモゴさせるから。

 口がモゴモゴするのは、伝えたいことがあるけど、言葉が纏っていないのだと気づく。

「いいよ。待ってるから。思ってること言ってみて」

 そーちゃんの言葉を待つ。
 思えば、僕はいつもそーちゃんの気持ちを勝手に想像して、本人から聞く前に逃げ出していたのかも。
 そーちゃんから「嫌い」と言われるのが怖くて。

「……ずっと、気に入らなかったんだ」

 そーちゃんが、静かに口にする。なんて言えばいいのか、迷いながら。僕は最後まで待ってみる。

「テルくんが人気になるのは原石を見つけてもらったようで嬉しかった。……でも、写真部に指定されたポーズとか、他の生徒とツーショット撮る時に無理に笑っている顔を見るのは、嫌で」

 ……だから、僕が皆に囲まれている時つまらなそうにしていたんだ。

「僕が見つけたテルくんなのに。事務所に入ってしまったら、髪型やメイクはボクじゃない人が触る。カメラだって……ボクじゃない人が撮る。テルくんが、ボク以外の人の被写体になるのが……応援してるはずなのに、すっごく嫌で」

 一度言葉を切るそーちゃん。俯いて「嫌な奴でごめん」と呟く。

「ボクの写真が拡散されて、ホワイトリリーに発見されたから一番に応援しなきゃと思うのに……失敗してしまえ、と何度も考える瞬間があった」
「……そうだったんだ」
「今日……防犯ブザーが鳴って、本当に……怖かった。テルくんにまた何か遭ったんじゃないかと思うと。……ここまで走って来ていた」

 もう、それが全てだよね。
 そーちゃんに嫌われたと思っていた。でも実際は、そーちゃんはずっと葛藤していた。

 僕がそーちゃん以外に触られたくないと思ったように、そーちゃんも僕を誰にも触れさせたくなかった。
 気づくのに随分遠回りしたね。

「……オレ……っ、テルくんが、好きだ。……大好きなんだ」

 可愛いヤンキーが僕を見上げて。
 泣きそうな顔で気持ちをぶつけてくれる。
 愛しさで溢れ、小さな体を抱きしめる。

「テルくん」
「触って。たくさん触って。……僕が好きなのはそーちゃんなんだよ……」
「……っ」

 そーちゃんの両手が背中に周りしがみつかれた。きゅう、と心臓がまた苦しくなって、もう泣かせたくない、という気持ちが強くなって。

「……待たせてごめん。……勇気が出なくて、ごめん……っ。防犯ブザーが鳴った時に、やっと自覚したんだ……」

 お互いに、何か遭ったら。
 生きた心地がしなくなる。
 それは。同じ気持ちだから。

「もう離れたくない……っ」

 そーちゃん、そーちゃん。

 僕も同じ気持ちだよ。
 言葉にしようとして、先に涙が溢れて、さらに強く抱きしめる。そーちゃんが必死に手を伸ばして頭に触れて、よしよしと撫でてくれた。

「そーちゃん、ありがと」
「うん」
「……大好き」
「ボクも……オレも、だいすき」

 未だに口調が安定しないことすら可愛いなあと笑みが溢れたら「その顔、撮りたかったな」とそーちゃんは笑った。