撮影は何とか終わった。カメラマンさんには「次はもっと柔らかい表情になるから! 気長にね〜」と声をかけられ頭を下げた。
次の人にバトンタッチして、メイク室に戻ろうとすれば……写真のプレビューを眺めている羽山くんがいた。
僕の写真を眺めている。立ち止まる僕の気配に目線を上げて「舐めてんの?」と睨まれる。
「……舐めてない、よ」
「つか、指示に従わないとかナニサマ? ウザいんだけど」
「で、でも。拒否したらあっさりOKもらったし……」
写真を撮る中、途中で羽山くんと同じように「服脱いで」と指示があった。指でシャツのボタンを外していき……やっぱり嫌になって「このままで、いいですか」と聞いたら「わかった」と承諾された。それだけだった。
「なんかお前の存在、すげえ腹が立つ」
「……ごめん」
だったら関わらないでほしいのに。何かと話しかけてくるのは羽山くんだ。
一言謝ってメイク室に戻ろうとする。しかし「そこの2人、ちょっといい?」とスタッフさんに声をかけられる。
「ダイヤモンドと真珠の原石みたいな2人! 一緒に撮ってみない?」
(え。僕帰りたい……羽山くんと関わりたくない……)
断ろうとすれば羽山くんは僕と肩を組んで「もちろんです」とにこやかに返す。まるで『僕たち仲良いです』みたいに。
あれよあれよと別のスタジオに連れて行かれ、羽山くんと写真を撮ることになってしまった……。
*
「おい、もっと笑えないの?」
「ったく……コイツが原石とかマジ?」
「鈍臭い」
そんな小言を隣でずっと聞かされながら。羽山くんの隣に立ち平常心を心掛ける。
「いいね。少しメイクや髪型変えてみよっか」とスタッフさんに言われ、またサクマさんが正面に来て顔に手を伸ばされギュッと目を閉じる。「はーい、顔の力抜いてね〜」と優しく言うサクマさんの言う通りにすると、隣の羽山くんから舌打ちが聞こえた。
髪型も少し変わって、2人で双子みたいな見た目になった。性格は正反対だけど。指示されたポーズをとり、羽山くんの手が腰に回った時、思い切り脇を抓られた。
「いたっ」
顔を顰めた瞬間にパシャリと撮られ「どうしたの?」と尋ねられる。慌てて謝り、その後も死角になる箇所から何度も体を抓られ……必死に笑顔を取り繕う。
何とか撮り終わり「もしかしたらこの2人を事務所は推していくかも〜」と言う話をチラッと聞き、今後も羽山くんと一緒になるのか……と肩を落とすと「一応、笑顔は作れるんだぁ」と羽山くんは笑う。
脇を抓られるのは痛かった。僕も流石に頭に来てしまい「足を引っ張ってるのは羽山くんじゃん」と言い返す。
「お前みたいな奴、さっさと辞めてくれないかなと思って」
「そんなんじゃ、誰も羽山くんと共演したいなんて思わないよ。そのうち苦労するよ」
「煩いな。表向きでは愛想良いだろ?」
「……例えば、羽山くんが有名になったころ、悪質な嫌がらせされたと辞めた僕からのタレコミがあるかもしれないよ?」
僕はしないけど。他の人が同じ目に遭って、羽山くんを恨んでいたら。一番叩けるタイミングを狙って週刊誌に情報を売るだろう。
羽山くんは苛立ったように、僕の髪を掴んで引っ張る。
「痛いッ!」
「黙れよ。そんなことされないように、徹底的に折ってやる。報復する気力もなくなるくらいに潰してやる」
メイク室には誰もいなかった。それをいいことに、羽山くんはそのまま髪を引っ張って僕を床に投げ飛ばす。
「やめてよ」
「全員辞めたらいいのに。今年の卵のトップは俺だ。お前も、辞めろ」
何が羽山くんをそんなに苛立たせるのか。僕はわからないまま、肌が露出されない部分目掛けて殴られて悲鳴を堪える。
「サクマさんにもベタベタ触らせやがって」
それは仕事だ。羽山くんとサクマさんがどんな関係なのか知らないけれど、私情を持ち込まないでほしい。
「服脱げよ。腹殴ってやる」
スタジオで脱がなかった僕が相当鼻につくのか、ぷちぷちとボタンを外されて脱がそうとしてくる。
「やめて」
「はは、弱そうな体」
腹部を手で撫でられて、ゾワッと悪寒。やめてと言うのに、整えられた髪型を崩され、よくわからないまま腹を殴られ……恐怖に変わった時、変質者に体を触られた記憶がフラッシュバックする。
(いやだ)
ずっとずっと、体の力が抜けずに緊張していた理由が、わかった。
(そーちゃんが、いい)
顔に触れるのも。髪型を整えるのも。
僕を撮るのも。
そーちゃんだったから、僕は自然体でいられたんだ。
他の人に触られるのも、撮られるのも、本当は僕が求めているものじゃなかったんだ。
そーちゃんに振り返ってもらいたくて、芸能界に入ってカッコよくなりたいなんて、とんだ見当違いだったんだ。
やっと気づいた。
誰にも触れられたくないと思った体は、羽山くんに殴られていく。
「痛い……やめて」
息が出来ない。苦しい。死んじゃう。
何とか逃げようと体を横にした時、ポケットに硬いものが入ってることを思い出す。
何か在った時のために、護身用で身につけていたもの。
(そーちゃん……そーちゃんっ)
急いで取り出し、紐を引っ張った。
ピ――――――ッッッ!
けたたましい音がメイク室と、隣のスタジオに響き渡った。
次の人にバトンタッチして、メイク室に戻ろうとすれば……写真のプレビューを眺めている羽山くんがいた。
僕の写真を眺めている。立ち止まる僕の気配に目線を上げて「舐めてんの?」と睨まれる。
「……舐めてない、よ」
「つか、指示に従わないとかナニサマ? ウザいんだけど」
「で、でも。拒否したらあっさりOKもらったし……」
写真を撮る中、途中で羽山くんと同じように「服脱いで」と指示があった。指でシャツのボタンを外していき……やっぱり嫌になって「このままで、いいですか」と聞いたら「わかった」と承諾された。それだけだった。
「なんかお前の存在、すげえ腹が立つ」
「……ごめん」
だったら関わらないでほしいのに。何かと話しかけてくるのは羽山くんだ。
一言謝ってメイク室に戻ろうとする。しかし「そこの2人、ちょっといい?」とスタッフさんに声をかけられる。
「ダイヤモンドと真珠の原石みたいな2人! 一緒に撮ってみない?」
(え。僕帰りたい……羽山くんと関わりたくない……)
断ろうとすれば羽山くんは僕と肩を組んで「もちろんです」とにこやかに返す。まるで『僕たち仲良いです』みたいに。
あれよあれよと別のスタジオに連れて行かれ、羽山くんと写真を撮ることになってしまった……。
*
「おい、もっと笑えないの?」
「ったく……コイツが原石とかマジ?」
「鈍臭い」
そんな小言を隣でずっと聞かされながら。羽山くんの隣に立ち平常心を心掛ける。
「いいね。少しメイクや髪型変えてみよっか」とスタッフさんに言われ、またサクマさんが正面に来て顔に手を伸ばされギュッと目を閉じる。「はーい、顔の力抜いてね〜」と優しく言うサクマさんの言う通りにすると、隣の羽山くんから舌打ちが聞こえた。
髪型も少し変わって、2人で双子みたいな見た目になった。性格は正反対だけど。指示されたポーズをとり、羽山くんの手が腰に回った時、思い切り脇を抓られた。
「いたっ」
顔を顰めた瞬間にパシャリと撮られ「どうしたの?」と尋ねられる。慌てて謝り、その後も死角になる箇所から何度も体を抓られ……必死に笑顔を取り繕う。
何とか撮り終わり「もしかしたらこの2人を事務所は推していくかも〜」と言う話をチラッと聞き、今後も羽山くんと一緒になるのか……と肩を落とすと「一応、笑顔は作れるんだぁ」と羽山くんは笑う。
脇を抓られるのは痛かった。僕も流石に頭に来てしまい「足を引っ張ってるのは羽山くんじゃん」と言い返す。
「お前みたいな奴、さっさと辞めてくれないかなと思って」
「そんなんじゃ、誰も羽山くんと共演したいなんて思わないよ。そのうち苦労するよ」
「煩いな。表向きでは愛想良いだろ?」
「……例えば、羽山くんが有名になったころ、悪質な嫌がらせされたと辞めた僕からのタレコミがあるかもしれないよ?」
僕はしないけど。他の人が同じ目に遭って、羽山くんを恨んでいたら。一番叩けるタイミングを狙って週刊誌に情報を売るだろう。
羽山くんは苛立ったように、僕の髪を掴んで引っ張る。
「痛いッ!」
「黙れよ。そんなことされないように、徹底的に折ってやる。報復する気力もなくなるくらいに潰してやる」
メイク室には誰もいなかった。それをいいことに、羽山くんはそのまま髪を引っ張って僕を床に投げ飛ばす。
「やめてよ」
「全員辞めたらいいのに。今年の卵のトップは俺だ。お前も、辞めろ」
何が羽山くんをそんなに苛立たせるのか。僕はわからないまま、肌が露出されない部分目掛けて殴られて悲鳴を堪える。
「サクマさんにもベタベタ触らせやがって」
それは仕事だ。羽山くんとサクマさんがどんな関係なのか知らないけれど、私情を持ち込まないでほしい。
「服脱げよ。腹殴ってやる」
スタジオで脱がなかった僕が相当鼻につくのか、ぷちぷちとボタンを外されて脱がそうとしてくる。
「やめて」
「はは、弱そうな体」
腹部を手で撫でられて、ゾワッと悪寒。やめてと言うのに、整えられた髪型を崩され、よくわからないまま腹を殴られ……恐怖に変わった時、変質者に体を触られた記憶がフラッシュバックする。
(いやだ)
ずっとずっと、体の力が抜けずに緊張していた理由が、わかった。
(そーちゃんが、いい)
顔に触れるのも。髪型を整えるのも。
僕を撮るのも。
そーちゃんだったから、僕は自然体でいられたんだ。
他の人に触られるのも、撮られるのも、本当は僕が求めているものじゃなかったんだ。
そーちゃんに振り返ってもらいたくて、芸能界に入ってカッコよくなりたいなんて、とんだ見当違いだったんだ。
やっと気づいた。
誰にも触れられたくないと思った体は、羽山くんに殴られていく。
「痛い……やめて」
息が出来ない。苦しい。死んじゃう。
何とか逃げようと体を横にした時、ポケットに硬いものが入ってることを思い出す。
何か在った時のために、護身用で身につけていたもの。
(そーちゃん……そーちゃんっ)
急いで取り出し、紐を引っ張った。
ピ――――――ッッッ!
けたたましい音がメイク室と、隣のスタジオに響き渡った。



