僕はあなたの星になる

「立花〜! すげ〜よかったよ!」
「ああ。感動した」

 奥で待ってくれていた坂下くんと矢野くんに褒められる。拍手は思ったより長く「以上を持ちまして有志イベントは終了となります」とナレーションが入っても歓声や拍手は鳴り止まない。

 しまいには「アンコール」という声が聞こえてくるほどだ。

「立花くん、もう一度出てくれない⁉︎」

 実行委員が走ってきて僕に言う。

「え……」
「お客さんがもう一度最後の人を見たいって!」
「すげ〜じゃん、立花!」
「行ってこいよ」

 坂下くんたちに背中を押され、僕は拍手が鳴り止まない花道へもう一度歩き出す。本編はプラネタリウムの世界観だったけれど、今は明るい中なので観客の顔が見える。一般客は微笑んで拍手してくれているが、生徒枠に座っている女子生徒は「誰あのイケメン⁉︎ 知らないんだけど!」「知ってたらわんちゃんSNS繋がるし!」と会話している声が聞こえる。

「ではここから1分間、撮影OKといたします。是非『第75回星見ヶ丘黎明高等学校』『煌めけ華の男子たち』というハッシュタグをつけて投稿してください! また、男子高校生の名前がわかっても、本名や学年、住所などは表記しないようにお願いいたします――」

(えええ僕はOK出してないんですけど⁉︎)

 と内心テンパりながら、観客からの「こっち見て〜!」とはしゃぐ声に顔を向け作り笑いをする。多分、こんな感じ。写真部に囲まれてフラッシュ焚かれまくった過去が練習になるとは。

 女子生徒たちが喜ぶような……男性アイドルがしそうなポーズをしてみる。その度に歓声が上がり、スマホを向けられカシャカシャ、と大きな音が鳴る。しかし観客に負けないくらいに写真部も本気を出して僕を撮っていく。この後展示する写真だろう。投票もするのかもしれない。

 これだけ反響があるなら諦めないでよかった。参加してよかった。そーちゃんも喜んでくれているはず……と目線を彷徨わせて姿を探す。同じ場所にそーちゃんはいた。だけど。

 カメラで撮ることはせず、棒立ちでただこちらを見ている。

(撮らないのかな? 自然体じゃないから?)

 そーちゃんの好みの被写体というものが未だによくわからない。

 1分後、坂下くんや矢野くんも花道に来て一緒に撮影OKとなった。2人を両脇に肩を組まれ、親しい友人がいない僕には眩しすぎる青春……! と思いながら今この瞬間を噛み締めた。ありがとう、2人とも。僕の背中を押してくれて。

 撮影も終わり、舞台裏に()け有志イベントは終了した。着替えようとすれば坂下くんは「今のうちに彼女候補探してくる!」とユニフォーム姿のまま校舎に向かった。
「またアイツは調子に乗って……」とため息を吐きながら制服に着替え、体育館裏の出口で待っていた彼女と矢野くんはこの後の文化祭を楽しむようだ。

(……そーちゃんに会いたい)

 着替えてもよかったが、今のこの気持ちをそーちゃんに伝えたいと思い体育館裏の出口から飛び出せば「あ、あの! SNSのアカウント教えてくれませんか⁉︎」と出待ちしていた女子生徒に囲まれた。

「え⁉︎」
「あ、もしかしてSNSとかやっていませんか⁉︎ 硬派なところも素敵です……!」
「あ、ありがとう……? あ、あのここ通してくれるかな――」
「じゃあ! 一緒に写真撮ってください! よし、ここは公平にみんな列になって!」

 え、あの。え。
 そーちゃんに会いたいだけなのに、目の前に長蛇の列が出来てしまった。
 隣に並ぶ女子生徒は「ピースでお願いします」とにこにこポーズを指定してきて。

(僕はアイドルの特典会チェキじゃないよ⁉︎)

 心の中で訴えながらもワクワクと並んでいる彼女たちの気持ちも無下(むげ)には出来ず……早く済ませてしまおうと黙って笑顔で対応することに努めた。

「胸の前にハートでお願いします」

「指ハートで!」

「ギャルピ! いえーい!」

 ……。

 ザッと30人は相手した。
 顔が笑顔で筋肉痛になりそう。でもあと残り5人だ。

 しかしその後にも「イケメンと写真撮れる!」と並ぼうとしている瞬間を見かける。

 そろそろ限界、誰か助けて……と泣きそうになった時「はーい、ここで受け付けは終了でーす」とそーちゃんが割って入った。

「え〜! 見逃してくれたっていいじゃないですか〜!」
「かれこれ30分は相手してますよ。それも善意で。せっかくの文化祭、写真撮って終わらせるつもりですか?」

 実行委員と対峙した時のように高圧的ではないが、女子生徒に対しても柔らかめの口調で、有無を言わせぬ迫力があった。女子生徒は「まあ、どこかで区切りはつけないとね……」と納得して去っていった。

 残りの5人。しっかり相手をする。
 僕なんかでいいのかわからないけれど、写真を撮れたあとの嬉しそうな顔が見れるなら悪くない。

「モテモテだなあ、テルくん」

 1番最後に並んでいたのはそーちゃん。
 会いたい人にやっと会えた。
 そーちゃんがいなったら、僕は今こんなことにはなっていなかった。全てが貴重で初めての経験だった。

 ……色々、想定外で大変だったけど。

 そーちゃんの顔を見たら貼り付けていた笑顔がみるみる剥がれていく感覚があった。

「……そーちゃんんんんん……!」
「うおっ⁉︎ どしたどした⁉︎ 突然泣いちゃって。……疲れちゃった?」

 そーちゃんに抱きつく。驚きながらも背中を摩ってくれるそーちゃんに甘えて全体重をかけていく。

 僕よりも背が低いそーちゃんだけれど、案外がっしりしていて受け止めてくれる。

「わかんない。なんで泣いてるのかなんて。でも……ずっとそーちゃんに会いたかったのに、中々会えなくて……みんなが僕を求めてくれるのは嬉しいけど……寂しくて……うう……」
「……そっか。……お疲れさま。テルくん」

 そーちゃんの腕。温かい。落ち着く。

「夜空のジャケットにキスなんて。大胆で驚いちゃったな」

 耳元で囁かれる。1番大事なシーン、見てくれていた。

「僕が輝けるのはそーちゃんがいるからだよ……そーちゃんがいなかったら、あの場に立てていなかったかも」

 プレッシャーに負けて。
 直前にくれたお守りの存在も大きかった。

「……そんなこと言われたら、浮かれちゃうよ」

 そーちゃんの腕の中で癒されながら。
 
 この後の文化祭はぶらぶら回る予定だったけど疲れてしまった僕は誰もいない教室で椅子に座って机に伏せて眠るだけに終わった。

 そーちゃんもどこかへ遊びに行くことはせず……僕の前の席に座り、頭をひたすら撫でてくれ……寝落ちする寸前、カシャ、とシャッターを切る音が聞こえた。

 また、勝手に撮らないでよ。
 文句を言おうと思いながら、意識を飛ばしていく――。