「きりーつ。れーい。さよーならー」
「さよーならー」
帰りのHR。
チャイムが鳴ると同時に「早く部活行こうぜ〜、ビリだったやつはアイス奢りな〜?」と速攻教室を飛び出していくサッカー部の坂下くんや「廊下は走るな! 全く、坂下の奴……」と文句を言いながら廊下を歩いて行くのは野球部の矢野くん。
その他のバドミントン部や吹奏楽部、美術部がそれぞれの部活に向かう中……僕は1人で廊下を歩く。
何を隠そう、僕は帰宅部なのだ。この後は本日発売の漫画を買いに本屋に向かうぞ〜! と、顔には出ないワクワクを胸に抱きながら階段を降りようとし……目の前に大きな段ボールを持って歩いている生徒を見かける。2箱も持っているし、視界が悪そうだ。実際動きはゆっくりで、追い抜いてしまおうと駆け足になった時。
ズリッ。
真横で、その生徒が階段で大きく足を滑らせる瞬間を見てしまった。
段ボールが宙を舞い、生徒が階段から転げ落ちる――姿をスローモーションで見、慌てて生徒の腰を抱き僕自身も落ちないように手すりを掴――み損ね。
小さな体が階段の角に打ち付けられないように僕自身の体を反射的に下にした。強い痛みに呼吸が止まるも、転んだだけで階段を転がり落ちなかったのは幸いか。
宙を舞った段ボールの中身がひらひらと落ちてくる。中身は大量の写真だったようで、割れ物ではなかった。それにひとまず安心し。
「……大丈夫?」
同じネクタイの色。同じ2年生。抱えていたものから恐らく彼は写真部。金髪に耳にピアス。僕たちの通う学校は頭髪検査は緩いから。全然写真部らしくない姿だな……と下から見上げていれば「はわ……」と彼が声を出した。
「はわ?」
「はわわ……王子さまだ……」
王子さま? いやいや、この根暗で陰キャな僕が? 見た目だけなら、この金髪くんの方が王子さまらしい。ピアスしてるから治安悪いけど。目はくりくりしてて可愛らしいから。
体を起き上がらせた金髪くんは僕の腕を掴んで体を起こしてくれる。大した痛みもなくて良かった。乱れた制服を直していけば、きらきらと輝く瞳が僕を見上げている。
「あ、あ、ありがとうっ。オレ、足滑らせちゃったみたいで……!」
「うん。僕がたまたま通りかかってよかった。写真部に向かうの? 2箱も持つなんて大変じゃない? 1つ持って行くよ」
「はわわっ、そんな! 王子さまにそんなことはさせられません!」
王子さまは聞き間違いではなかったようだ。黒髪で、前髪で目元隠してて、眼鏡もしてる僕が王子さまなんて。苦笑し、金髪にピアスをしてる割にはヤンキーぽくはないと気づく。
あと。僕より背が小さい。僕が170センチくらいだから……彼は160センチくらい?
2人で段ボールを運びながら「名前なんて言うの?」と尋ねる。
「あ、ちなみに僕は立花 輝紀。帰宅部」
「ボク……あ、オレは……藍田 創一郎。タチバナくんが言っていたように、写真部なんだ」
口調が定まらないことからヤンキーに憧れてる人種なのかな、と思ったり。金髪にピアスしてても、可愛らしさは拭えない。そのことを突っ込んじゃうと可愛らしい藍田はへこんでしまいそうなので心の中だけで思うようにし、廊下を歩いてすぐ先にあった写真部の部室に入り込む。
黒板には『コンテストまであと10日!』と大きな文字で書かれている。
「へぇ〜、コンテストがあるんだ」
「ウン……あ、おう。テーマは『綺麗なもの』。ずっと探してるんだけど、中々見つけられなくて」
藍田が呟き「大変だ」と他所ごとのように返しながら他の部員が撮って飾ってある写真を数枚眺める。花。水の煌めき。虹。人間の笑顔。……藍田の分はまだない。
……と、そろそろ関係ない僕は帰らないと。
「じゃあ、僕はこれで」
「あ、ちょ、ちょっと――おい待てやゴルァ!」
「⁉︎」
可愛いらしい藍田はヤンキーに憧れている。それは本当のようで、おどおどしていたと思えば突然ヤンキー口調になった。驚いて固まってしまえば「ごごご、ごめん! 舐められないように対策してるんだっ」と頭を下げられる。
……ヤンキーを目指しているわけではない?
「……訳ありな感じ?」
「ボク……知らない人に、痴漢されることとか、結構多くて……だから金髪とかピアスして、口調も変えてオレは怖い奴だぞって知らしめてるんだ……」
「……そっか」
ごめん。僕には威嚇してるアリクイにしか見えない。それはともかく、確かに黒髪のままだったらさらに可愛さが相俟って危険な目に遭いそうなのは事実だ。
「えと……それで? 引き留めたのはどうして?」
「あ……そう! 綺麗なもの、探してたんだけど……たった今見つけて!」
ゴソゴソと鞄から取り出したのは大事そうな一眼レフ。ヤンキーが持っているチグハグ感に凝視してしまえば「テルくん。写真撮らせてもらえないかな⁉︎」と頼まれた。
綺麗なもの=僕? そして、テルくん?
「僕たちそんなに距離深まってないはずだけど」
「さっき僕を助けてくれた時、王子さまだったんだ! お願い、一度だけ撮らせて欲しい! テルくん!」
「テルくんやめて」
「テルくんんんんん!」
「だ〜! わかったよ! もう!」
可愛い奴め!
藍田がただのヤンキーだったら断ってたし、断ったらぶん殴られていただろうし。しかし相手は見た目だけがヤンキーな可愛らしい子だ。手を合わせて頭を下げる彼の気持ちを無下にすることは出来ず承諾してしまう。
パァッと顔を輝かせる藍田に「1枚だけな」と腕を組んで睨みつける。
嬉々とレンズを覗き込む藍田は……そのあと不満そうな顔になって「却下」と僕を見る。
「え?」
「だめ。綺麗じゃない」
「……いや、そりゃそうでしょ。僕はただの帰宅部で――」
「わ、わかった! ボク……オレがテルくんをサイキョーのモデルさんにする! だから明日、またココに来てくれない⁉︎」
「はあ⁉︎」
何故僕がこんな目に。変な子に目をつけられてしまった。ヤンキーもどきなのが幸いか。いつも早く家に帰って漫画に浸るのが好きだったんだけど……。
「テルくん、お願い……オレ、テルくんを輝かせられる自信があるんだ」
そういう藍田に、少し賭けてみようと思うのは。僕自身も変わった刺激が欲しかったから。
深呼吸して、頷く。
「わかった。また明日な。……そーちゃん」
テルくんと勝手に呼んだ仕返しに創一郎からそーちゃんと呼んだ。
ヤンキーにはつかないであろう愛称に大きな目をぱちぱちさせたそーちゃんは、それはそれは嬉しそうに顔を綻ばせ「うん、また明日!」とブンブン握手をした。
だからヤンキーはそんなに笑顔にならないんだって。
これが僕たちの人生を変える出会いだった。
【僕はあなたの星になる】
「さよーならー」
帰りのHR。
チャイムが鳴ると同時に「早く部活行こうぜ〜、ビリだったやつはアイス奢りな〜?」と速攻教室を飛び出していくサッカー部の坂下くんや「廊下は走るな! 全く、坂下の奴……」と文句を言いながら廊下を歩いて行くのは野球部の矢野くん。
その他のバドミントン部や吹奏楽部、美術部がそれぞれの部活に向かう中……僕は1人で廊下を歩く。
何を隠そう、僕は帰宅部なのだ。この後は本日発売の漫画を買いに本屋に向かうぞ〜! と、顔には出ないワクワクを胸に抱きながら階段を降りようとし……目の前に大きな段ボールを持って歩いている生徒を見かける。2箱も持っているし、視界が悪そうだ。実際動きはゆっくりで、追い抜いてしまおうと駆け足になった時。
ズリッ。
真横で、その生徒が階段で大きく足を滑らせる瞬間を見てしまった。
段ボールが宙を舞い、生徒が階段から転げ落ちる――姿をスローモーションで見、慌てて生徒の腰を抱き僕自身も落ちないように手すりを掴――み損ね。
小さな体が階段の角に打ち付けられないように僕自身の体を反射的に下にした。強い痛みに呼吸が止まるも、転んだだけで階段を転がり落ちなかったのは幸いか。
宙を舞った段ボールの中身がひらひらと落ちてくる。中身は大量の写真だったようで、割れ物ではなかった。それにひとまず安心し。
「……大丈夫?」
同じネクタイの色。同じ2年生。抱えていたものから恐らく彼は写真部。金髪に耳にピアス。僕たちの通う学校は頭髪検査は緩いから。全然写真部らしくない姿だな……と下から見上げていれば「はわ……」と彼が声を出した。
「はわ?」
「はわわ……王子さまだ……」
王子さま? いやいや、この根暗で陰キャな僕が? 見た目だけなら、この金髪くんの方が王子さまらしい。ピアスしてるから治安悪いけど。目はくりくりしてて可愛らしいから。
体を起き上がらせた金髪くんは僕の腕を掴んで体を起こしてくれる。大した痛みもなくて良かった。乱れた制服を直していけば、きらきらと輝く瞳が僕を見上げている。
「あ、あ、ありがとうっ。オレ、足滑らせちゃったみたいで……!」
「うん。僕がたまたま通りかかってよかった。写真部に向かうの? 2箱も持つなんて大変じゃない? 1つ持って行くよ」
「はわわっ、そんな! 王子さまにそんなことはさせられません!」
王子さまは聞き間違いではなかったようだ。黒髪で、前髪で目元隠してて、眼鏡もしてる僕が王子さまなんて。苦笑し、金髪にピアスをしてる割にはヤンキーぽくはないと気づく。
あと。僕より背が小さい。僕が170センチくらいだから……彼は160センチくらい?
2人で段ボールを運びながら「名前なんて言うの?」と尋ねる。
「あ、ちなみに僕は立花 輝紀。帰宅部」
「ボク……あ、オレは……藍田 創一郎。タチバナくんが言っていたように、写真部なんだ」
口調が定まらないことからヤンキーに憧れてる人種なのかな、と思ったり。金髪にピアスしてても、可愛らしさは拭えない。そのことを突っ込んじゃうと可愛らしい藍田はへこんでしまいそうなので心の中だけで思うようにし、廊下を歩いてすぐ先にあった写真部の部室に入り込む。
黒板には『コンテストまであと10日!』と大きな文字で書かれている。
「へぇ〜、コンテストがあるんだ」
「ウン……あ、おう。テーマは『綺麗なもの』。ずっと探してるんだけど、中々見つけられなくて」
藍田が呟き「大変だ」と他所ごとのように返しながら他の部員が撮って飾ってある写真を数枚眺める。花。水の煌めき。虹。人間の笑顔。……藍田の分はまだない。
……と、そろそろ関係ない僕は帰らないと。
「じゃあ、僕はこれで」
「あ、ちょ、ちょっと――おい待てやゴルァ!」
「⁉︎」
可愛いらしい藍田はヤンキーに憧れている。それは本当のようで、おどおどしていたと思えば突然ヤンキー口調になった。驚いて固まってしまえば「ごごご、ごめん! 舐められないように対策してるんだっ」と頭を下げられる。
……ヤンキーを目指しているわけではない?
「……訳ありな感じ?」
「ボク……知らない人に、痴漢されることとか、結構多くて……だから金髪とかピアスして、口調も変えてオレは怖い奴だぞって知らしめてるんだ……」
「……そっか」
ごめん。僕には威嚇してるアリクイにしか見えない。それはともかく、確かに黒髪のままだったらさらに可愛さが相俟って危険な目に遭いそうなのは事実だ。
「えと……それで? 引き留めたのはどうして?」
「あ……そう! 綺麗なもの、探してたんだけど……たった今見つけて!」
ゴソゴソと鞄から取り出したのは大事そうな一眼レフ。ヤンキーが持っているチグハグ感に凝視してしまえば「テルくん。写真撮らせてもらえないかな⁉︎」と頼まれた。
綺麗なもの=僕? そして、テルくん?
「僕たちそんなに距離深まってないはずだけど」
「さっき僕を助けてくれた時、王子さまだったんだ! お願い、一度だけ撮らせて欲しい! テルくん!」
「テルくんやめて」
「テルくんんんんん!」
「だ〜! わかったよ! もう!」
可愛い奴め!
藍田がただのヤンキーだったら断ってたし、断ったらぶん殴られていただろうし。しかし相手は見た目だけがヤンキーな可愛らしい子だ。手を合わせて頭を下げる彼の気持ちを無下にすることは出来ず承諾してしまう。
パァッと顔を輝かせる藍田に「1枚だけな」と腕を組んで睨みつける。
嬉々とレンズを覗き込む藍田は……そのあと不満そうな顔になって「却下」と僕を見る。
「え?」
「だめ。綺麗じゃない」
「……いや、そりゃそうでしょ。僕はただの帰宅部で――」
「わ、わかった! ボク……オレがテルくんをサイキョーのモデルさんにする! だから明日、またココに来てくれない⁉︎」
「はあ⁉︎」
何故僕がこんな目に。変な子に目をつけられてしまった。ヤンキーもどきなのが幸いか。いつも早く家に帰って漫画に浸るのが好きだったんだけど……。
「テルくん、お願い……オレ、テルくんを輝かせられる自信があるんだ」
そういう藍田に、少し賭けてみようと思うのは。僕自身も変わった刺激が欲しかったから。
深呼吸して、頷く。
「わかった。また明日な。……そーちゃん」
テルくんと勝手に呼んだ仕返しに創一郎からそーちゃんと呼んだ。
ヤンキーにはつかないであろう愛称に大きな目をぱちぱちさせたそーちゃんは、それはそれは嬉しそうに顔を綻ばせ「うん、また明日!」とブンブン握手をした。
だからヤンキーはそんなに笑顔にならないんだって。
これが僕たちの人生を変える出会いだった。
【僕はあなたの星になる】



